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「あまり人の家庭に口を出すものでもないが。一区に住める条件であるならば、一区のほうが納める税金は安くなる。それに、まだ向こうのほうが見回りの兵も多い」
「……はい。ですが、夫と死別したわけではないので、一区には住めないのです」
「そうか」
これ以上、深入りしてはならない。
アーネストは軍人として彼女の護衛についているだけ。こんな夜遅くに、若い女性を一人歩きさせるのは危険だからだ。
「わたし、結婚して……二年経つのですが。夫は仕事で別の土地にいるので、離れて暮らしているのです」
そうであるなら、相手の仕事先についていけばいいものを――
と思ったが、その言葉はぐっと呑み込んだ。事情があって、家族を仕事先に連れていけないのは多々ある。
アーネストだってそうだ。
「そうか」
「手紙は定期的に書いてはいるのですが。返事はまったくこなくて。死んでしまったのかも、と思ったときもありますが。それは大丈夫だったみたいで……だけど、仕事先で他に好きな人がいて、それでこっちに戻ってこないのかなって……」
そのような話を突然されても、アーネストとしては答えようがない。
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