第十四話

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 いつもと同じ料理が出され、口へと運ぶ。だけど今日は、味気なかった。いつもと同じであるはずなのに。  気がつくと、リリーの姿が見えない。もう、帰ったのだろう。  食事を終え、支払いを済ませて外に出る。  夜風が少し長くなった髪を弄びつつ、頬をなでていく。それが、食事によって火照った身体に心地よい。 (彼女は、無事、帰れただろうか)  右側に顔を向けると、広場を照らすガス灯がぼんやりと見えた。 「……きゃっ」  女性特有の甲高い悲鳴がかすかに聞こえた。  その悲鳴を聞いて、一人の女性の顔が思い浮かぶ。いやな予感がした。  いつもであれば左側の回廊に向かって歩くところを、反対方向に向かって走り出した。広場から居住区の三区に向かう。  一度、彼女を送り届けたことがあってよかった。 「……やっ……んっ」  悲鳴はくぐもった声になり、誰かが口を封じようとしている様子が伝わってきた。 「何をしている」  三区へ向かう道の路地裏。建物の壁に人を追いやって、自由を奪おうとしている男が二人。 「な、こんな時間に。軍人か? なんでこんなところに?」  話し方から察するに、スワン族の男のようだ。
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