248人が本棚に入れています
本棚に追加
「不快かもしれないが、俺がお前を抱いて家まで連れていく。いいな?」
「は、はい……」
抱き上げた彼女は、思っていたよりも軽かった。
こうやって誰かを抱き上げたのは、あのとき以来だ。結婚式の食事会のあと、オレリアを部屋まで連れていったとき。
「大丈夫か?」
「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
今日は月も出ているためか、ランタンがなくても道が見えるほど明るい。
「ここだったな」
「そうです」
「家の中に入れば安心だろう」
扉の前で彼女をおろした。小さな鞄から家の鍵を取り出して、扉を開ける。それがきちんと閉まるのを見届けてから、戻ろうと思った。
「……で、ください……」
気づいたときには、上着の裾を彼女がひしっと掴んでいた。
「一人にしないで、ください……」
身体を強張らせている彼女を、アーネストは眉間に力を込めて見つめた。彼女が怖い思いをしたというのは、その現場を目撃したから理解できる。
しかし、一人にしないでと言われて、アーネストがここにいていいかがわからない。いや、駄目だろう。
「家族などはいないのか? 友人など……」
最初のコメントを投稿しよう!