第十四話

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 彼女が顔をあげると、海のような碧眼がまっすぐにアーネストを捕らえた。 「何をされた? 触られたのか?」  灯りもない暗い室内、それでも月明かりがどこからか差し込み、涙を流す彼女の顔がはっきりと見えた。 「どこを触られた」  さざ波のような声色には、アーネスト自身も気づかぬうちに、怒気が込められていた。  腹立たしい。彼女に触れた男が憎い。  そのような感情が沸き起こる理由はわからない。 「ここを触られたのか?」  肉付きのよい丸いお尻を、右手でなでる。 「あっ……う、ん……」 「ここもか?」  左手は、ふくよかな胸元を包み込む。 「アーネストさま……」  彼女の手が伸びてきて、アーネストの頬に触れる。 「あの男を、忘れさせてください……」  ――抱いてください。  そう言った彼女が、口づけをせがむ。  アーネストは堕ちた。彼女の甘美な誘惑に負けた。  オレリアに似た女性を、オレリアの代わりとして抱くのだ。  最低だ。  こうなったら、堕ちるところまで堕ちてやる――
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