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あの男たちを取り逃がしたと彼は悔しそうに口にしたが、あんな男を追いかけるのであれば側にいてほしかった。だけど、今のオレリアはオレリアでなく食堂で働くリリーである。
あの後、家まで送ると言われたときも、それを断った。
アーネストとリリーの関係は客人と給仕。
けれどもオレリアの身体には力が入らなかった。先ほどの恐怖心が心のどこかにあって、一人で歩くのもままならない。
ふわりと身体が浮いたと思えば、その身体はアーネストによって抱きかかえられていた。これはあのときと同じ。結婚式の食事会を終え、部屋に戻ろうとしたあのとき。
懐かしい思いに、胸が熱くなる。
会いたかった、話したかった。そして、触れたかった。
オレリアも彼の身体に腕を回して、力強く抱きしめた。
家に着き、彼の腕から解放されたとき、離れたくないと思った。おもわず上着の裾を掴み、本音をこぼした。それは、オレリアとしての気持ち。
とにかく、一人になるのが怖かった。
月明かりの下、彼の鉄紺の瞳を見上げると、自然と涙がこぼれてきた。
もう、気持ちがおさえられない。
アーネストにきつく抱きしめられたまま、家の中に入る。
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