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もっと深く口づけをするためにアーネストが唇を離した瞬間に息をつくと、鼻から抜けるような甘ったるい声が漏れた。
「……ふぁっ……ん」
くちゅりくちゅりと唾液の絡まる音が、頭にまで響く。
恋い焦がれた相手との口づけが、身体が溶け出すほど気持ちのよいものとは知らなかった。腰が抜けそうになる。
「寝室はどこだ」
熱のこもる声で低く問われ、オレリアは「あっち」と一つの扉を指さした。
「俺には……妻がいる。それを伝えないと、フェアではない気がした……」
こんなところでも、彼は律儀である。
その妻はわたしです、と言いたかったけれど、ぐっと堪えた。
「そのうえで、もう一度だけ聞く。本当にいいんだな?」
潤んだ瞳で見下ろされ、コクリと頷いた。
本音をいえばオレリアとして抱かれたい。けれども彼は、オレリアと別れたがっている。この場にいる女性がオレリアと知ったら、きっと彼は抱いてくれない。
アーネストを騙すことに、チクリと胸が痛んだ。
だけど彼と別れたとしてもこれを思い出として胸に刻んで生きていける。アーネストを好きだった気持ちは誇れるべき想い。
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