第十六話

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 オレリアと結婚しガイロにやってきてからというもの、女は抱いていない。それは自身の立場を考えてのうえ。閨の場はどうしても無防備になる。いっときの享楽によって、命を落とすなんてことがあっては馬鹿らしい。  しかしアーネストだって聖人君子ではない。そんなときは、自身でちょいちょいと処理をしていた。  だからこそ、彼女との関係はまずかった。オレリアを裏切った。いや、彼女を裏切ったのは今に始まったことではない。恨まれても仕方ないことを隠している。 (やはり、首都まで行くべきか……直接会って、話をして、きっぱりと別れる……)  ここ数日考えていたのは、どうやってオレリアと別れるかであった。  不貞を働いたのはアーネストであって、オレリアに落ち度はない。 「……はぁ」  自然とため息も多くなる。ここにジョアンがいなくてよかった。ため息をつくたびに「辛気くさい」と冷たい視線を向けてくる。  もう一つ、ため息が多くなった理由がある。  例の食堂でリリーの姿を見なくなった。それはもちろん、あの日を境にして。  それもアーネストを悩ませている原因の一つであった。 (勲章……あの家に落としたのか……)
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