第十六話

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 アーネストの軍服につけられていた勲章の一つがなくなっていた。あってもなくても、今のところさほど影響はない。式典までになんとかすればいいのだが、その式典も近く、予定されているものはない。  ただ、それを彼女の家にあるかどうかも確認したかった。だけど、リリーの姿が見えない。  客と給仕の関係であるのに「リリーはどうした?」だなんて、他の人に聞けるわけがない。あのジョアンでさえ「最近、リリーさん、見かけないんですよね~。どうしたんでしょう?」と言っており、さすがに理由までは知らないようだった。  あの日をきっかけに姿を消したとなれば、その理由に自分がかかわっているのではないかと思えてくる。 「……はぁ……」  何度目かわからないため息をついた。 「閣下! 辛気くさい。やめてください。僕の幸せが逃げるじゃないですか」 「なんだ、いたのか?」 「いたのか、って……ひどい……」  ジョアンは顔の前で手を大げさに振って、そこに漂う何かを散らすような仕草を見せる。 「僕、きちんとノックして部屋に入りましたからね。それに対して、閣下は『入れ』って言いましたからね」
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