247人が本棚に入れています
本棚に追加
アーネストの軍服につけられていた勲章の一つがなくなっていた。あってもなくても、今のところさほど影響はない。式典までになんとかすればいいのだが、その式典も近く、予定されているものはない。
ただ、それを彼女の家にあるかどうかも確認したかった。だけど、リリーの姿が見えない。
客と給仕の関係であるのに「リリーはどうした?」だなんて、他の人に聞けるわけがない。あのジョアンでさえ「最近、リリーさん、見かけないんですよね~。どうしたんでしょう?」と言っており、さすがに理由までは知らないようだった。
あの日をきっかけに姿を消したとなれば、その理由に自分がかかわっているのではないかと思えてくる。
「……はぁ……」
何度目かわからないため息をついた。
「閣下! 辛気くさい。やめてください。僕の幸せが逃げるじゃないですか」
「なんだ、いたのか?」
「いたのか、って……ひどい……」
ジョアンは顔の前で手を大げさに振って、そこに漂う何かを散らすような仕草を見せる。
「僕、きちんとノックして部屋に入りましたからね。それに対して、閣下は『入れ』って言いましたからね」
最初のコメントを投稿しよう!