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彼女は別の言葉を待っている。アーネストもそれをわかっていて、わざとそう言った。少しだけ、恥ずかしいという気持ちもあったから。
彼女の淡雪のような白い顎をとらえ、こちらを向かせる。吸い込まれるほどの碧眼に魅入られながらも「愛している」と呟く。
庇護欲がいつ愛情へと変化したのかはわからない。それに気づかぬふりをしていたのも間違いない。年の差、立場、罪、すべてを言い訳にして、彼女に相応しくないと勝手に評価をつけていた。
そんなアーネストを受け入れてくれたのがオレリアだ。ひたむきに十二年間も待ってくれた。
静かに唇を合わせる。
花のような甘い香りが、アーネストを魅了する。わけのわからない酩酊感に襲われ、自我すら手放しそうになる。
――コンコンコンコン、コンコンコンコン……
しつこく扉を叩く音で我に返ったアーネストは、名残惜しいながらも彼女の唇を解き放つ。
「そっちに座っていろ」
長椅子に彼女を座らせてから扉を開けた。
「閣下。おやつの時間です」
「呼んでない」
「え? そろそろ仲直りしたかなって、ね? 奥様」
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