第二十一話

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 ジョアンである。彼はアーネストの肩越しに、部屋の真ん中で背筋を伸ばして座っているオレリアを見た。 「奥様。喉が渇きましたよね。ね、ね、ね?」 「それだけ預かる」  アーネストはジョアンからティーワゴンだけを預かって、また彼を部屋の外に追いやった。 『閣下~』  扉越しにジョアンの情けない声が聞こえてきたが、無視をする。しばらくすると、向こう側も静かになったから、あきらめて戻っていったのだろう。  アーネストがお茶を淹れようとすると、オレリアが慌てて手を出してきた。自分がやるとでも言いたげのようだが、それを制した。 「いいから、座ってろ」  そわそわと落ち着かない様子で、オレリアは言われるがまま座っている。 「俺だって、お茶くらい淹れられる」  その言葉で、彼女が微笑んだように見えた。  彼女の前にお茶とお菓子を並べると、彼女の隣に座った。  ジョアンが用意したお菓子はクッキーである。これなら、仕事の合間にもつまめるとアーネストが言っていたのを覚えているのだ。こういうところは気が利く男であるが、いかんせん、アーネストをいじって楽しんでいる傾向もある。
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