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目の前に現れた、茶色の外壁の大きな建物。数日前までオレリアが働いていた食堂であるが、見る角度がかわるだけで、雰囲気が異なって見える。煙突からは白い煙がもくもくと切れ間なくあがっていた。
「そうだ。支部棟と食堂はつながっているからな」
「わたしはいつも食堂の裏口から出入りしていたので、実は正面から出入りしたことがなくて」
「正面から右側に行けば、広場に出る。以前、お前と待ち合わせをした場所だ」
あのときは、夜遅くまで働いていてアーネストが家まで送ってくれると言ったのだ。
「広場に行きたいです」
アーネストを見上げ、はっきりとした口調でそう言えば、彼は少しだけ口元をゆるめる。
オレリアにとって、広場はアーネストとの思い出の場所でもあるのだ。
「……アーネストさまは、どうしてあのとき、リリーを送ってくれたのですか?」
つないだ手から、アーネストの動揺が伝わってきた。だけど、表情からそれを読み取ることはできない。
「あんな夜遅くに、女性を一人、外を歩くのは危険だと思ったからだ。現に、お前は襲われたじゃないか」
そう言われてしまえば言い訳はできない。
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