第二十四話

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このような場所に用がある者などいない。いるとしたら、この白壁を乗り越えて不法入国なり出国する者たち。ここに見張りの兵はいないが、壁の向こう側には見張りを配置している。この裏側は、ちょうど関所の監視所がある場所になっている。それでも壁を乗り越えようとする者は、年に数人はいるのだ。 「オレリア。俺の後ろに隠れていなさい」  白壁を背にし、さらにオレリアをかばうようにしてアーネストは振り向いた。彼女は小さく頷いて、アーネストの背中側にまわる。  ここ最近、誰かにつけられるような感じがしていた。オレリアを狙っている変な男かと思ったときもあったが、どうやらそうではないらしい。  オレリアを狙っていたのは食堂の客だった。  しかしアーネストを尾行していたのは、そんな素人ではない。ある程度、訓練を積んだ者だ。それでもアーネストに気づかれたのだから、たかが知れている。はずなのだが。 「朝から俺たちをつけまわして、いったい、なんの用だ」  腹から響く低い声で、姿を見せない者に向かって問いかける。
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