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アーネストは駆けつけた兵に指示を出したものの、彼自身はこの場にとどまった。
残されたのはオレリアとアーネスト、そしてここで争いが起こったと思わせる血だまりの跡。
「アーネストさま……」
オレリアの声は、ひどく掠れていた。叫んだわけでもないのに声が出なかった。
「なんだ」
普段と変わらぬアーネストの声であるが、少しだけ震えているようにも聞こえた。
「アーネストさまが、お父さまとお兄さまを?」
「ああ。処刑した。俺があいつらの首を落とした。その首を一か月間、城門に晒した。トラゴスの王がかわったことを、国民に示さなければならないからな」
アーネストは、風で飛ばされたオレリアの帽子をゆっくりと拾い上げた。それを彼女にかぶせようとして躊躇する。
オレリアの唇は小刻みに震えていた。
「俺を恨んでいい。俺の顔を見たくないというのならそれでもかまわない。お前が離縁を望むのなら、そうする覚悟もできている」
アーネストはオレリアに帽子をかぶせてから離れようとするが、彼女はひしっと彼の上着の裾を掴む。
「アーネストさまが、わたしに手紙を書いてくださらなかったのは……トラゴス国が原因ですか?」
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