第二十五話

7/9
前へ
/242ページ
次へ
 涙が滲む目でアーネストを見上げると、彼も驚いたように鉄紺の瞳を大きく開いた。 「トラゴス国が何をしてきたのか。それをわたしが知れば、悲しむと思ったのですよね。わたしを嫁がせ、わたしごとハバリー国を討つ。それ以外にも、何度もトラゴスは兵を挙げてきた。それをガイロの手前で食い止めていたのは、アーネストさま。あなたではないのですか?」  オレリアの目尻からつつっと涙が溢れ出す。 「陛下もお義父さまも、みんな。わたしにはそういったことを教えてくださろうとはしなかった。ですが、わたしだっていつまでも子どもではありません。社交や外交の場に出れば、そういった話だって聞こえてくるのです。彼らは、共通語ではない自国の言葉で、わたしを貶めるような発言をしておりました。だから陛下やマルガレットさまはお気づきになられておりませんでしたが」  オレリアが共通語以外にも堪能なのは、プレール侯爵夫人のおかげかもしれない。ハバリー国に嫁いでからも、他の言語の勉強はおろそかにはしなかった。とくに、ハバリー国は共通語の使えない者もいるし、他国の者も、身内と話すときは自国の言葉を使う。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加