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喧嘩ができるような状態でもなかった。なにより、アーネストが一方的に見ていただけなのだから。
自室に戻ろうとするアーネストの背に、ジョアンが『おとなげない』とか『いくじなし』とか『ぽんこつじじい』とか、さんざん暴言を吐いたような気がするが、すべて無視をした。
――懐かしい夢をみたような気がする。
厚手のカーテンの隙間から、細い光が差し込む。
身体を起こすとズキリとこめかみが痛み、アーネストは顔をしかめた。
昨夜は飲み過ぎたかも知れない。
寝台から降り、テーブルの上に用意されていた水差しからグラスに水を注ぐ。半分ほど注いだところで、それを一気に飲み干した。からからに乾いていた身体にじんわりと水分が染み渡る。
飲み過ぎた原因。それは自分でもわかっている。
昨夜、ガイロに来てから初めてオレリアに手紙を書いた。
彼女は毎月手紙をくれ、その手紙はアーネストの机の中に、大事に丁重にしまわれている。確か先日、百四十一通目の手紙が届いたところだ。
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