無能な男

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剣河「うぃ…」 母「あんた、昨日、バイトの面接行ったの?」 剣河「いや、まぁ、電話はしたんだけど…」 母「はぁ?電話はって何よ、じゃあ、行ってないの?もう、もう、養いきれないからね、不動産経営してるからって、金が湯水のように出てくるわけじゃないのよ?今、経営が傾いてちょっとピンチなんだから、なんで、いつもあんたそうなの?途中でなんでもやめる、やめる、やめる、俺には出来ないって、いっつもそうじゃないのよ」 剣河「いや、その…なんか…やっぱ、向いてないかなって、向いてない事したって、やっぱり、長続きしないと言うか、やっぱ、向いてる仕事をした方がいいじゃん、やりがいもあるだろうし、その方が母さんもいいだろ?」 母「あんたねぇ、そんな事言う前にまず働きなさいよ、それから、考えなさい、人生経験積んで…あんた、ちゃんと朝散歩とかしてるの?日光に浴びて、きちんとした生活を送らないとだめしょ?」 剣河「いや、朝散歩はしてるよ、決めつけないでよ、なんでそうやって、いつも決めつけるの?僕の事を知らないのに、当たり障りのない事言って、それで、解決すると思う?一緒に探してよ、働け働けの一辺倒じゃん、僕は社会の事何も知らないんだから、協力してよ、それなのに、母さんは母さんで忙しいからって、放置したままじゃないか」 母「…あんたに自立して欲しいのよ、独り立ちして欲しいの」 剣河「だから、それを手伝ってよ、確かに、独り立ちは僕もしたいけど、誰か協力してくれる人がいないと、前に進めないよ、母さんは自分の主張を押し付けて、まるで話し合いにならない、いつも」 母「あんただって、ママの気持ち考えずにズケズケ言ってるじゃないの」 剣河「じゃあ、母さんに似たのかもね」 母「…」 剣河「…」 母「…あんた、何かしたい事ないの?」 剣河「いや、まぁ…その………ゲーム実況とか?YouTuboとかで」 母「それで?」 剣河「それで、色々機材必要なんだよ…」 母「…いくらよ」 剣河「まぁ、そんな高くないよ、二十万くらい」 母「馬鹿じゃないの!!!!!?」 剣河「怒鳴らんでよ、鼓膜破れるじゃん…」 母「あんたねぇ、そういうのは、自分で働いて買いなさいよ、もう…呆れた…」 剣河「別に、母さんに、出してなんて言ってないじゃん、ほら、また決めつける」 母「…」 剣河「安い機材だと画質とか悪いから、厳しいYouTuboの世界じゃ食えないの」 母「………分かった、じゃあ、二十万、あげるから」 剣河「え?いいの?」 母「ほら、やっぱり、親の金で機材買おうとしてるじゃないの」 剣河「母さんが、自分であげるって言ったんじゃん、僕は頼んでないのに、意味わからん」 母「とにかく、なんでもいいから、やってみなさい、…はぁ…」 とその態度に再度呆れた様子で、母は電話を切る。 剣河はいっきに、現実に戻された気分になった。 本当は二十万ではなく、二十七万円であった。欲しかった機材諸々の値段は。 そして、また、窓を開けて、夜風に当たる。 もう…いやだ…でもなぁ…いつまでも、ニートやってる訳にも… 俺も、空を飛べたり、雷を手から打てるような力があればな…。 と、空を飛んで、会社から帰る社会人達を頬杖つきながら見ていた。 それぞれの家に往々に、帰宅して、みな、行きたい方向にバラバラに飛んでいた。 翼を広げて飛んでいる人や、空中歩行している者もいた。 剣河「いいなぁ…」 剣河は感情のこもってない声でそう呟いた。
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