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静かな馬の前で(1)
ザァァァァーーーーーーーーーーーーッ。
いまだに豪雨は降り止まない。
今日は一日中、こうなんだろう。
仲間を捜索する任務を与えられた男の騎士は出発の準備が整ったため、厩舎へ向かった。
馬の臭いが漂う場所には、馬具が付けられた馬一頭と男と同い年の女が立っていた。
馬をなでていた女は男に気付くと「……お、おはよぅ」と、ぎこちなく言った。
男の騎士はにやりと笑いつつ、返した。
「よぅ、おはよう。……知らなかったぜ、お前が馬の当番だったなんてなァ。早起きは大の苦手じゃなかったか? ハサミで馬のたてがみでもちょん切りにきたのかよ。……朝早くから、ご苦労なこった」
雨の音はここでも響いている。
女「……バルドゥール君が当番だったけど、調子悪そうだから交代してあげた……嫌なこと言うよね……どこにハサミ持ってるのさ……」
男「へぇ……今は持ってない、と。こりゃ失敬。あいつ、どうなんだ? ……身体、治ったのか?」
女「ん、ん、うん……だいぶ良くなったらしいけど、まだ本調子じゃないって、話してた……」
男「……そ〜か、おっかねぇな〜……もう流行ってないって聞いてたのに」
女「……。あ、あの……シュテファニーたちを捜しに行くんでしょ?」
男「ほぉ……耳が早いな。お前も知ってたかァ」
女「…………無事に帰ってきてね……」
男「へっ!? ……心配してくれんの? これは珍しいなァ……」
女「……け、喧嘩する相手がいなくなるの、寂しいもん……」
男「……はは。あーー……喧嘩、か……まーそーだな。俺とお前はいつもやりあってきたもんなぁ……こんなのを腐れ縁っていうんだろ」
女「……ほ、本気で言ってるんだから。……治安が悪いところに行くんでしょ……くれぐれも気をつけなさいよ、ローちゃん……」
ローちゃん、と呼ばれた男「……ふっ……俺をローちゃんなんて呼ぶのはお前と、あとはお前の父ちゃんと母ちゃんだけだ。……いま言った……腐れ縁ってヤツも……じきに切れる……」
女「……えっ」
ローちゃん「ほら、お前には彼氏がいるんだろ? 名前はわかんねーけどよ。……そいつにあとは引き継いでもらうってこった。……俺とお前がガキの頃から続けてきた喧嘩も、もう終わりってことよ。……良かったなァ、嬉しいだろ?」
女「…………。いじわる……どうして、そんな……言い方、するの?」
ローちゃん「……んー、どうしてかって? ふふっ……おかしなコト言いやがる。……そりゃあ、お前が俺に直接、教えてきたからじゃねーか。この騎士団に入るちょっと前に。……お店によく来てた少し年上の男の人にコクられた……いい人そうだから、付き合うことにしたーって……」
女「…………」
ローちゃん「あっ……こうも言ってたなァ。……彼とデートもしてるし、彼の家にも行って……イロイロと経験して、オトナになれたー幸せだーって。……おい、お前はよーく知ってんだろうがな、俺のオヤジはすぐに病でおっちんじまって、オフクロはオフクロで俺を捨てて、どっかのヤロウと出ていっちまったんだ。まだ、6歳だった俺を置き去りにしてな! ……だから、近所に住んでたお前の父ちゃんと母ちゃんが俺の面倒を見てくれてた! ……お前、あのときから面白くなかったんだろ? 俺のことが、目障りだったんだろ? 親の件はすまねぇと思うがなァ、面白くねぇのは俺も同じだッ! 俺が当時、どんな気持ちだったか、お前にわかんのかぁ!! ……彼氏ができたこと、お前が自慢してたのはそのためなんだろ? 俺みたいな孤独の十字架を背負ってるヤツと、自分は違うんだって、お前は俺に見せつけてぇんだろっ!? あぁん!? 違うのかァ? ……これみよがしに、ニコニコしやがって。気に入らねぇ!! そんでもってよ……」
女は男の言葉をさえぎって、大声を発した。
「バッ、バカぁっ!!! なんでわかってくんないのさぁっ!!!」
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