静かな馬の前で(2)

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静かな馬の前で(2)

「…は?はぁ?わかってくんないって…なにが、だよ?なに言ってんだ?お、お前から仕掛けてきた喧嘩じゃねーのか?…あ、お前、泣きそうになってんの?どーいうつもりだ?泣いたら勝てると思ってんのかァ?……今までの喧嘩はたいてい、そーだろう!お前から、売ってんだぞ!か、彼氏やら、デートやらのことだってお前、俺に言ってたことだろー!?おぃ、泣くんじゃねーよ!…俺が嫌がるお前をぶん殴って、口を割らせたんじゃねぇだろーが!!」 反撃しようと男が言い返すと、女は泣き声で叫んだ。 「かっ彼氏なんて、いないってぇっ……そんなの、ウソだもんっ!……そ、そー言ったら、ローちゃんの気を惹けるって、思ったからでぇ……」 「あ??な、なにぃ!??か……彼氏、い、いない??う、うそおぉだってぇ??ん、お……お、俺の気を、ひく??…な、なんで、そんなことすんだよ??」 予想外の相手の言葉に男は驚いた。 「違うぅぅ、ちがぁうう…っ…いないのぉッ、ウソなの!彼氏のことは全部、全部、ウソなんだってばぁ!信じてぇよぉぉぉっ!」 女は泣きながら、首を横に振った。 「ぉぉお前、待てよ、信じてって……カ、カッコいい年上の彼氏いたんじゃなかったのか?そ、それが嘘ぉ、なのか??……け、けど、な、なんで、そんな嘘つく必要が……」 不意打ちに戸惑う男の声に怒る女の声が重なった。 「…ローちゃんが、あたしを避けるからぁ……あたしから、離れてぇいこうとするぅ、からぁ……だ、だから、だから……あたし、あたしぃ、つらくてぇ、寂しくてえぇぇ…いっ…一緒に同じ騎士団に入ったのにぃ、なかなか話も出来ないし、あたしと目あわせないようにぃ、顔あわせないように、ローちゃんはいっつも、してるぅしぃ……」 「……あ……ぁ……そ、そりゃあ…」 男は気勢をそがれた。 「どーしてぇっ、どう、してぇなのぉ…っ、き、嫌わないぃぃでえぇぇっよおぉぉ……あたしぃを、避けないでぇよぉぉぉ〜〜〜う、う、ぅぅ……ふ、ううあ、わぁぁぁ〜〜〜んんん……バカッ、バカ、バカぁぁぁ〜〜〜っ、ローちゃんのバカ〜〜〜ぁぁぁぁんんん!!!」 溜まった想いを吐き出し、しゃくりあげて泣く女を前にし、任務へ向かうために防具を装着して武器を腰に下げている男は固まってしまった。 ローちゃん「……………………」 馬「…………」 女「……うぅぅ〜〜ひゃ〜やだぁぁぁ〜〜、ひ、あぅ、うう、わぁあああ〜〜っ、は、はっなれて、いかなぁいでぇぇ〜〜あ、ぅぅぅ〜ローちゃんんんんん〜〜、あたしにかまってえぇぇ〜〜、ふっ、う、うわぁぁ〜〜〜、あたしだけの、ローちゃんでいてえぇぇ〜〜っ……やだぁ、やだぁ〜〜もう、こんなにだぁいしゅきなのにいぃぃ〜〜、ローちゃんと、ケンカしたぁくなぁぁいいい〜〜仲良くぅぅぅ、したぁあいいい〜のおぉぉ〜〜っ…やだぁ、ぃやだぁぁぁ…もうこんなのイヤだぁぁぁぁ〜〜〜…うぅぅぅぅ〜〜〜……」 「…………。はぁ〜〜〜…………」 大きく息を吐いた男は肩を落とし、手にしていた盾と兜を床へ落とした。 ガ、ガーン、カッシャ、シャーン、と音が響く。 「ブルルルルル……」と、馬が首を動かした。 「……はぁ〜〜〜…………ああ、わかってる、わかってるって……朝っぱらから、うるさくてすまねぇ……おまえは俺らと違うな……」 男は目をぱちぱちさせる馬をなでてから、立ちつくしたまま泣き響(どよ)む女をそのまま抱きしめてみた。 「……!!??ひぐぅ、なにぃ…なんなの…さぁぁっ、バカぁっ」と、女。
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