12才

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12才

 まだ暑さの残る9月。 「だいちー!」  学校の帰りに後ろから瑠花が走って追いついてきた。振り返るとハーハーと息を切らしていて全力で走ってきたのが分かる。 「どうしたの?」  そう聞くと 「なんか変なおじさんが話しかけてきてしつこくて、ちょっと押したら転んで、そしたら逆上して私の肩を掴もうとしたから走って逃げてきた」  そう言って後ろを警戒していた「もう、いないみたい」  そう言って笑った。  この日から何度かこんなことがあり、警察にも相談に行っていた。相手の男も分かり警察が注意をしたということだった。  しかし、学校に置いていた瑠花の工作した物が無くなっていたりして、この前は瑠花と名前の書かれた傘まで失くなった。あの男が学校の周辺を歩いていたという話もあったけど警察は何もしてくれなかった。先日は瑠花の家の庭先にも不審な男が入っていた形跡が見られて、瑠花は心底怖がっていたし、怒ってもいた。  そんな時に、僕は瑠花に話しかけられた。一生のお願いがあると。  今度の土曜日、地元では一番大きな3階建てのスーパーの本館と立体駐車場を結ぶ階段の場所である事をしたいから一緒にきて欲しいという話だった。そこまではどちらかの母親に運転してもらって行って、そこからは僕ら二人だけで買い物をしたいと言って別行動をして、本館3階と繋がる駐車場の最上階の階段の踊り場にあるベンチで瑠花は一人で休憩するという。僕には屋上に出る階段の上で隠れて待機していて欲しいという。  土日でも駐車場の階段ホールは人気が少ない。みんな駐車場正面にあるエレベーターを使うから。  そこにあの男が来るように仕掛けて、わざと襲われた振りをして警察に付き出すと言うのだ。  僕は証人というか目撃者になる役でいざとなれば助ける役目もして欲しいようだった。最初はビデオで撮影も考えたけれど余りに用意周到だとさすがにやりすぎだと言うことになった。  瑠花に言われたのが、助けに来たときは階段から突き飛ばして落としてもいいと言う。とにかく大怪我をすれば、特に足を怪我すれば動けなくなって安心できると言っていた。 「本当にやって大丈夫かな?」  すると瑠花は、 「しょうがないじゃん。あいつが悪いんだから」  そう言った。そして、 「簡単なのは私が怪我して暴行か傷害で訴えることだけど、大地は私が怪我する方がいい?」  追い討ちをかけるようなことを言ってから瑠花はにっこり笑った。  そして、僕は考えた末にその役を引き受けた。
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