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実行日
実行日が来た。
スーパーに隣接する立体駐車場の階段は想像よりも高くて長かった。
少し怖くなった。
ここには二人のお母さんと4人でやって来た。母たちは洋服を見てから、それから食料品売場をまわってから帰ると言っていた。2時間はかからないと思うと言っていた。
瑠花は駐車場の最上階の階段の踊り場にある自動販売機でジュースを買いそこにあるベンチに座った。
僕もジュースを買い、屋上の駐車場まで上がり、時々下をうかがっていた。
あの男は本当に現れるんだろうかと僕は思っていた。でも瑠花は来ることを確信しているようだった。
そして、来てから30分くらい過ぎた頃にあの男が駐車場の方から瑠花のいる階段の踊り場に近づいてきた。
少し障害になる壁が多くて見づらかったけれど、男はニヤニヤ笑いながらやって来て、瑠花はすぐに立って階段ホールの中央の手すりに背中を向けて、すがるようにもたれ掛かって対峙をしていた。
僕は出番を気にしながら様子を見ていた。人気は少ないといっても誰もいないわけでもないので瑠花はどうやって襲わせて捕まえようとしているのか気になった。
すると二人が言い争う声が聞こえた。でも小声で緊迫した感じはしなかった。でもよく見たら男が瑠花の腕を掴んでいることに気づいて、僕は慌てて階段を下りて行った。
瑠花は僕の姿を確認したら、周りをきょろきょろと素早く見回した。誰もいないことを確認したようだった。そして僕の目には、瑠花も男の腕を掴んで無理やり階段ホールの中央にある手すりの方に引っ張ってるようにも見えた。
ここのスーパーの手すりは古いからか意外と低かった。勢いがあると階段の手すりを飛び越えて反対側の階下に落下しそうな気がしたので、僕は落ちないように二人を掴むために近寄っていった。
僕が近づいたら急に瑠花はしゃがみこんだ。そして男の足を掴んだ。
僕はわかってしまった。
「のびろ」の歌を歌うんだね。
二人で呼吸を合わせて男の足を持ち上げて、手すりの向こう側、反対側の階下に男を落とした。男はかなり大柄だったが小学生相手にかなり油断があったんだと思う。
落ちる瞬間、
「キャーーーっ!!!」
鼓膜が破れるほどの大声で瑠花が絶叫していた。そのせいで男の「助けてくれー」の絶叫は誰の耳にも届かなかった。
・・・・・。
それからは大騒ぎになったけれど僕はよく覚えていない。耳が聞こえなくなったように世界は無音になっていた。
瑠花の言葉だけは覚えてる。
「だいちは何も言わなくも私のやろうとする行動をすぐに理解してくれると思ってた。ありがとう…」
そして付け足すように、
「さようなら」
そう確かに言った。
男は救急車で運ばれたけれど階段の角などに頭から落ちていたので病院で死亡が確認された。
目撃者は誰もいなくて、でも瑠花の悲鳴はたくさんの人が聞いていて、僕たちを警察は疑わなかった。
これまでのストーカー行為も考慮されたんだと思う。
事件は、あの男が瑠花を襲い、勢い余って階下に落下したということになった。そして僕が唯一の目撃者として重要な役割になったことも事実だった。
そもそも僕たちは12才だから、刑事罰どころか逮捕もできない。
瑠花のことだからそれも最初から計算していたと思う。
それでも、人を殺して平気なわけではない。
もっとショックだったのが、瑠花の家族…相葉家が、事件が落ちついた時点ですぐに引っ越しをしたことだった。
かなり前から計画はあったみたいで、瑠花を守るためだったんだろうとみんなは言っていた。
瑠花の最後の言葉がさようならだった意味を引っ越しのあとで僕はやっと理解した。
それから、お隣さんなのに僕の家族にも何も言わずに夜逃げのように消えてしまったことは、不自然でいろいろな噂もあったようだけど僕は何もわからなかった。
事故として処理されたけれど、瑠花の家族にはいろんな電話の嫌がらせとかがあったのは本当のことのようだった。
とてつもなく、重い罪を抱えたまま、僕はひとりぼっちになった。
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