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006 - 佐藤の過去
初対面同然だった汐見に泣きながら相談した忘年会の後────
その年明けから本格的に汐見との交流を深めた俺は、人に対する付き合い方、考え方を根本から立て直した。
学校時代と社会に出てからとでは、人との付き合い方が違うのだ、ということをちゃんと理解していなかったことを痛感させられ、それを汐見にも指摘されて徐々に軌道修正していった。
だから、今の俺があるのは汐見のコミュニケーションスキル教育の賜物だと思ってる。
人間関係は【事情変更せざるを得ないことがある】ということすらわからないほど、小中学校時代に人と関わらないようにしていたことの弊害が起きていたんだと思う。
俺は──小学校に上がる前、3度おっさんのストーカーに張り付かれ、性的被害に遭いそうになった(3回とも未遂、1度は攫われた。いずれも違うおっさん)ことから、家族が一気に過保護になった。
地元では有名な老舗和菓子屋・佐藤甘味堂の次男だった俺は、すでに目立つ顔立ちをしていたため、下校後は外に出ないよう言われ、小学校入学後からは家の中でゲーム・アニメ三昧の日々を送っていた。
それでも……自分で言うと気分が悪くなるが【フランス人形のような美少年】だったため、思案した父が俺に自分の店の試作品やら余った商品を与えるようになった。朝昼晩の食事の合間に和菓子を当たり前のように食べる日々を送っていたんだ。
父の思惑通り、俺はぶくぶくと太り始め、中学になっても甘いものを食い続ける食生活のせいで、身長は平均なのに体重がおそろしいくらい増えて……
かつての【フランス人形】が【ハーフっぽいデブ】になったことで、ストーカーは皆無になった。
だが、高校入学前の健康診断で糖尿予備軍であると警告されたのだ。
事ここに至って父はようやく俺に対するストーカー対策を見直すことに決めたらしい。
高校入学後から少しずつ甘味の摂取を控え、軽い運動を命じられ、それまでは横に大きくなるだけだった155cmだった身長も少しずつ伸び始めた。
高校2年に上がる直前の2月下旬、日課である夜のランニング中。
いつものコースの途中が工事中だったので仕方なく、暗くて慣れない夜道を走っていると、レンガの段差が見えずに転んで足を骨折してしまい、1ヶ月入院。入院中、足を吊った状態でほぼ横になって過ごしていたためと病院食の健康的な食生活で、身長が一気に13cmも伸び、その後も伸びが止まらなかった。
高校2年に進級した時、太っていた頃の骨格はあるものの、痩せて身長まで伸び、見違えるようなイケメンに生まれ変わった?俺は1年遅い高校デビューを果たすことになってしまった。
そこからはまぁ、ご想像の通り。
手のひら返しとはこのことか。と、俺は周囲の人間たちの面白いほど違う対応に呆れていた。
特に女子。
小・中と、イケてる系1軍女子からは【キモオタハーフデブ】との呼称を賜っていた。
元々小学校からアニメやゲームにハマっていて、二次元女子にしか性的興奮を感じなかったが、彼女らにそんな俺の神聖な趣味を揶揄われたくなかったし、そこでまたキモオタ認定されていじられるのも癪だったし、オタクであることを聞かれることもなかったのでカミングアウトすることもなかった。
だから、高校2年から始まった空前のモテ期以降、イケてる系1軍女子から『告られたら付き合う』というイベントが増え、その都度、思った───(めんどくさい……)と。
彼女たちは俺の中身になど興味はなかった。
彼女たちの興味・関心は常に【自分】で、俺は連れて歩いて自慢するアクセサリー。
そんな見た目が変わっただけで手のひら返しをするような異性に興味を持てると思うか?
アニメの中の戦闘少女たちは命をかけて周りにいる大切な人を守ろうとするのに、現実の彼女らはどうだ?
自分にしか関心がなく、自分の隣にいるアクセサリーのような男にすら「自分に関心を持て」と強要し、それができないとわかると自分から別れを切り出す。
そんな異性にどんな感情を持てばいいんだ?
とりあえず。
二次元じゃなくても、女性の肉体なら、それなりに興奮できるようになった。
一応、立つものは立つ。なので入れる。以上。
そういうふうにしか感じてなかったんだ。
今思うと、マジで……汐見に逢うまでの俺は、クソやろうだったよな、と思う。
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