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「ちょっと先生呼んできますね! 9時前になるとあの人捕まんないんで!」
「あ、はい」
本当に慌ただしい看護師さんだ。まぁ、元気なのはいいことだと思う。
だが、数分後に『やなせ』くんが連れて来た先生は、ひょろひょろと細長く青白い顔を長い前髪でゆらゆらさせて、オレよりも寝不足っぽく今にもぶっ倒れそうな、オレと同年代くらいの男性の医者だった。
「先生! はい! 昨日の急患! えっと……『汐見』さん!」
やなせくんは、オレの患者名プレートを確認しつつ、先生に紹介した。
「あー、……? ……昨日って……」
「急患の! 脇腹の!」
「……あぁ~。あの2人か……」
「先生! しっかりして! 昨夜、急患多くて寝てないの知ってるけど!」
「声大きいよ、やなせくん……」
のっそりとした動きをする先生の横で小刻みに動くやなせくんは身長差も相まってリスのようで、面白いコンビ芸を見ているようだった。
「バイタルはオールオッケーでした!」
「うん……えー、『汐見潮さん』ですね?」
「はい」
「念の為……生年月日を西暦でお願いします」
「はい。1988年7月10日です」
「他も確認しますので、上着、広げてもらえますか?」
そう言って、さっきやなせくんが座っていたスツールに座ると、聴診器を耳にかけて構える。
オレはいつの間にか着替えられている病院服にようやく気づいて、合わせを解いた。
「大きく息を吸って……」
医者の男性が、聴診器を心臓に当て、指示を出したので
す~~~~っっっ!!!
「吐いて……」
は~~~~~!!! と大袈裟に呼吸した。
「うん……大丈夫そうだね」
聴診器を耳から外しながら、今度は瞳孔のチェック。喉のチェック。脈のチェック。
看護師のやなせくんの手元の紙を見て、うんと一つうなづいた。
「裂傷の大きさから推測すると……ハサミ?ですかね?」
「はい……」
「運が良かったです。内臓と動脈を傷つけていなかったので」
「そうなんですか……」
「よく使われてたモノだったんですか?」
「え?」
「凶器が鈍いものだと刺し傷はかなり危ないんですよ」
「……僕がいつも使ってるハサミで……先が割と尖ってて、よく切れる良いものです……」
「そうなんですね。裂傷としては切れ口が小さく、凶器の切れ味がよく切先が鋭かった、そしてさほど長くなかったのが幸いしたんだと思います。傷内部の周辺にもあまり損傷がないので」
そういうと、顔を見えにくくしている前髪を揺らして先生がにっこり笑った。
笑うとちょっと男前度が上がるようだ。
「今日は金曜日ですし……土日お休みのお仕事ですか?」
「はい」
「じゃあ、日曜まで入院してもらって、傷が開かないようであれば、月曜日には退院できると思います」
「え? そんなに早く?」
「ええ。まぁ、でも今日1日はゆっくり休まれてください。こちらでも連絡しないといけないところがありますが、まだ早いでしょうし」
「?」
連絡? 誰に? と聞くよりも早く
「救急隊員から警察に通報されてます。昨夜、汐見さんの処置中に警察から問い合わせが来てました」
「!!!」
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