012 - 病院にて

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   微睡(まどろみ)からうっすら浮上するように覚醒すると、まだ病院だった。  窓からは夕焼けが差し込んでいて、手元に置いているスマホを持ち上げて確認すると、午後5時を回っている。  案の定、佐藤からのLIMEの通知が入っていたが、返信がないからといって追いLIMEしてこないところにあいつらしさが漂う。 (……佐藤に、LIMEするか…………めちゃくちゃ気が重い)  だが、こうなったら色々──紗妃にも、……佐藤にも──話さないといけないだろう。  その覚悟ができるまでにどれだけの時間がかかったことか。 (まさか、警察が介入する羽目になってから、そう、なるとはな……)  スマホを握り直して、通知をタップするとLIMEが立ち上がり、佐藤とのトーク画面が出る。 「大丈夫。ちょっと怪我しただけだ」  そう一言だけ入れると、即、既読され、ブブっ!と返事が来た。 『どうした?  何があった?』 (こいつ……もしかしてオレからLIMEが来るまで、ずっと待機してたのか?)  LIMEのテキストで話すような内容じゃない。電話の方が良いが、まだベッドの上から動かない方がいいだろう。  そういえば、と、スマホの通話を病室で禁止されていることを思い出して#逡巡__しゅんじゅん__#する。 (消灯時間て……たしか……) 「後で電話する。夜の9時くらいって大丈夫か?」  モテ男の華金を邪魔しないか?とか考えて打ってたら 『大丈夫だ。今日はそのまま帰るから』  また即座に返事が返ってきた。  スマホの向こう側にいるだろう佐藤の、体温と呼吸、存在を強く感じる。 (紗妃は……LIMEに即レスしなくなってたしな……)  いつからだったんだろう……付き合いたてとは違って、夫婦になって一緒に暮らすようになってからでは、互いの感情が変化するのは当然かもしれない。  だが、紗妃とは久しく感じたことのない温かさを佐藤から感じて安心する。 「了解。後で。じゃ」  そう打つと、夕方まで眠り続けていたオレはナースコールを押して担当医師の回診を受けるため、やなせくんを呼んだ。  もっさりした男性医者は、今朝と違って今は「佐々木」と書かれたネームプレート下げていた。 「うん、やっぱり……」 「え? なんですか?」 「さっき診た時も思ったけど、汐見さん、けっこう鍛えてるよね?」 「え、あ、はい」 「鍛えてる人は回復も早いんだ。血流の流れが早くて新陳代謝が良いから回復が早い。その典型例だね。寝るとだいぶ回復してくるのもわかるよね?」 「え、そ、そうかも」  月曜日からの睡眠不足を#補填__ほてん__#するように眠っていたのも関係してるのかもしれない。 「痛みは?」 「あ、ちょっとずつ戻ってきました」 「じゃあ、鎮痛のほうは服薬に移行して調整していこう。やなせくん」 「はい」 「あとは~~~」  専門的な指示用語が飛び、ボケッとしていると 「そういえば、身内の方はなんて?」 「あ、ああ、えっと、一応、明日の午後にくるように連絡は入れておきました」  嘘だ。まだそこまで具体的には伝えていない。が、そのつもりではあった。 「そう。じゃあ、僕らもそのように警察に連絡を入れておくから」 「はい……」  そして───夕食を摂り、長らく使っていなかったスマホアプリで色々と動画を確認していた。  そうこうするうちに、佐藤と約束していた9時前になり「消灯します~。明日の朝食も8時からですので~」と巡回してる看護師さんが告げて、病室は消灯された。 (そういや、あれか。最初にいた部屋とは別なんだな)  今頃気づいて、まぁどうでもいいか、と思った。  少ししたら、話し声が聞こえなくなり、他の人たちのガサガサとした物音だけが聞こえた。  オレはシーツの中に顔を突っ込んで、LIMEの画面を開き、9時になった瞬間 「今大丈夫か?」と送ると、即既読がついて即レスを受信。 『大丈夫。俺から掛けるか?』  相変わらず、オレ贔屓(ひいき)な佐藤の対応に少し笑ってしまった。 「いや、いい。ちょっと待て」  シーツから頭を出してキョロキョロと暗くなった病室内を見渡すが、さっき確認したとき、両隣は耳の遠そうなご老人だったし、向かいも似たようなじいさんだった。  多分、シーツの中にくるまって少し音量を落として話せばオレの声は聞こえない、はずだ。  LIMEの通話ボタンを押す。 「もしもし」  案の定、ワンコールで佐藤が出た。 (期待を裏切らないやつだ……)
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