013 - 佐藤との出会い

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 ッバシャッ!  日本酒をぶっかけられたオレを見て、佐藤は青ざめていた。  そりゃそうだ。「鈴木先輩」はオレじゃなくて「佐藤」にぶっかけるつもりだったはずだ。 「鈴木先輩」の狼狽ぶりに、逆にオレは落ち着いていた。 (こういう奴は最初に下手(したて)に出ると調子に乗るからな……) 「鈴木先輩」の行動は明らかに悪意のあるソレだった。  いい加減、開発部に来ては営業部内部の話をあれこれベラベラくっちゃべっていたこいつが【大嫌い】なのを再認識したオレは、酒がかかってたメガネを外し、ハンカチで拭いながら据わった目で「鈴木先輩」を睨みつけた。 「……先輩……酒は飲むものであって、かけるものじゃないですよ。地蔵じゃあるまいし」 「お、俺は、お前じゃなくて佐藤に……」 「佐藤さんだって、地蔵じゃない。いくら酔ってるからってちょっとやりすぎでは?」  オレは特別正義感があるわけじゃない。だが、腹にすえかねていたのは確かで、このまま放っておけなかった。  佐藤がみるみるうちに青ざめていくのを見て、頭も体も冷めていき、冷静さに拍車がかかっていく。  睨むオレ。狼狽える「鈴木先輩」。青ざめる「佐藤」。  三者三様、三つ巴の膠着(こうちゃく)状態が数十秒続いた。  一悶着ありそうな気配を察知した女性の先輩社員がオレたちのテーブルに来て、傍若無人な「鈴木先輩」をその場から連れ出してくれた。  それで、その場はひとまず、ことなきを得た。  オレと佐藤はほっと息を吐き、互いに顔を見合わせてひとしきり笑い合った。  せいせいしたが、濡れたまま帰宅するのも嫌だったので、社に戻る方が早いと思い「着替えてから帰るから伝言を頼む」と佐藤に言付けて帰ろうとすると、案外押しの強い佐藤が会社まで同行することになった。  この時に【Suger And Salt】なんてコンビ名までいただいたのだ。  宴会場はオレのアパートとは反対方向で、社まで戻るのに歩いて2分だから一旦会社に戻って着替えるか、思ったのだが──後で考えると、そのまま帰ってもよかったな。とも思った。  この時、直帰することを選択していれば、佐藤と親しくなることはなく、佐藤は会社を退職し、オレたちにはなんの接点もなくその後を過ごし──未来は変わっていただろう。  この、1年の仕事納めの日に、咄嗟にでも『一旦、社に戻る』という選択をしたオレはデカい分岐点のルート選択をしたと思っている────  佐藤を道連れに会社に戻ったオレは手早く着替えた。  宴会場からそれほどかからないから大丈夫だろうと思っていたが、濡れた部分から少しずつ冷たさが体を冷やしつつあったため、仕上げに厚手のコートを羽織った。  さて帰るとするか、と身支度を整えたオレに、まだシラフではなさそうな佐藤が軽いノリで二次会に誘ってきた。 (風呂入りたいし、こんな美形と外でサシ飲みは勘弁したい……)  オレは外で注目を浴びるのに慣れてないし、そもそもこいつと一緒にいて釣り合いが取れるような顔も服もおしゃれな話も持ち合わせていない。  そう考えて、つい、徒歩10分の自宅に誘うことになってしまった。 (まぁいいか……しかしなぁ……)  クリスマスイルミネーションが年明けまで巻き付けられている街路樹が通りに沿って光る中、横を歩く顔面偏差値80越えのイケメンを見上げて思う。 (こいつが女子だったらさぞ美人で人生イージーモードだったろうに……そしたらどこぞの金持ちと結婚してこんなうわさを立てられることも……)  なんて、(らち)も開かないことを考えながら、会話を始めた。 「しっかし、意外だなぁ」 「え?何がですか?」 「うわさってのは当てにならないな、ってことだ」  そう話して、つい、営業部に佐藤が夜遅くまで残っていたよな、ってことに言及した。  その時、何をどう話したかあまり覚えていないが 「……周囲にいる人からの嫉妬や羨望から足を引っ張られることが多い。大きな組織にいる優秀な人間の宿命、だから……」  すると突然──佐藤が泣き出してしまったのだ……!
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