013 - 佐藤との出会い

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(こんな色男が……)  泣きすぎた佐藤の顔は涙でぐしょぐしょで鼻水は垂れるわ、ついでに涎もちょっと出ている。 (せっかくのイケメンが台無しだろ……)  そう思いながら、佐藤の次の言葉を待ってると、佐藤が顔を上げた。 「僕……あの先輩からずっと嫌がらせ、受けてて……」 (だろうな。っつか知ってる)  ぼうっと虚空を見つめて訥々(とつとつ)と語り始める佐藤の横顔を、オレはただ眺めていた。 「でも、頑張って、営業で、ちゃんと、結果、出して……」 (そうだな。それも、今日わかった)  涙はおさまっているが、声にはまだ宴会場のときのようなハリがない。 「だけど、嫌がらせ、減らなくって……」 (だよな。『鈴木』は開発まで来てペラッペラ『佐藤』の悪口言いふらすまでやってたからな)  さっきオレに酒をかけやがった『鈴木』を思い出したオレは顔を(しか)めた。 「【枕】なんか、して、ない……」 (だろうな。さっき聞いた話だと……そんな時間、ないよな……)  もう『鈴木』【先輩】ですらない、オレの中では【スズキやろう】でいいな。と思いつつ 「最初は……面倒見のいい人、だった、のに……」 (ん? そうだった、のか??) 「ある時から突然……」 (……)  その【時】が気になったオレは思わず合いの手をいれた。 「……心当たり、ないのか?」  ちら、と佐藤がこちらを見た。 「わからなかった、んです……その時、は……」 (その時、ってことは……) 「? 最近、わかった?」 「はい……」 「なんだったんだ?」 「……」  佐藤が俯いたので、オレは無意識にまつげの長さを目測で測って(まつげのカーブを伸ばしたら3センチくらいありそうだな)と無関係なことを考えていた。 「僕……が去年……年末まで、付き合ってた彼女、が……」  促すようにオレはゆっくり頷いて、佐藤が話しやすいよう注意を払う。 「先輩と……付き合ってた、らしく、て……」 「は?!」 (ちょっと待て?!)  思いも寄らない情報に一瞬、脳がバグった。 「僕、二股、かけられてた、みたいで……」 (なんだそりゃ?! 社内で二股?! マジで?! ンな大胆な……!)  ごくり、と唾を飲み込むと 「おい……そ、そんなことしたらバレるし、目立つだろう?」 「はい……ただ……その元カノ、先輩と付き合ってるの、隠してたらしくって……」 (あ、ぁあぁ~~~……これは……佐藤自身の問題じゃなくて……) 「先輩、彼女さんから『佐藤と付き合うことになったから別れる』って振られたらしくて……それから……だったみたい、です」 (ぁあ……気の毒に……)  つまり、この時まで良い先輩に指導され社内恋愛もできて順調に見えた佐藤に、人災が一気に降りかかったのだ。  信頼して面倒見のよかったスズキ先輩が隠れて付き合っていた彼女が自分に告白した。それと同時に、佐藤と付き合えることになった彼女は、社内1見栄えの良い佐藤に乗り換えるため、同じ営業部で佐藤を指導してるであろう先輩本人に別れを告げた。  おそらく、その元カノ自身、付き合う前の佐藤の情報をスズキ本人からなんらかの情報を得ていて実際に見て気に入って乗り換えることにしたんだろう。 (最っ低なクズどもの醜悪なド修羅場に、無自覚な佐藤が巻き込まれただけじゃないか……!)  つまり、外見だけ、見た目の良さばかりの魅力を優先するような人間、それも恋人同士だった1組の男女に佐藤は両足もろとも引っ張られるどころか引っ掛けられ、引きずり倒された。 (それどころか……社内で信頼している人間を、2人とも一度に失った……ってこと、か……)
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