013 - 佐藤との出会い

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「っか~~~~。イケメンも大変だなぁ……」 「フフ……でもその元カノ、別の会社にあと2人彼氏がいたらしいので、そこに転職がうまくいって、今は別の県で元気にしてるそうですよ」 「マジかよ……」 「逞しいですよね」  あはは、と笑いが漏れてきた佐藤に安心した。 (笑ってる方が数倍いいな……)  そう考えてると、何かが胸に去来したオレは、決意した。 「……年明けたら、僕……いや、オレも上長にそれとなく進言してみるよ」 「え? ナニをですか?」  キョトンとした顔をしている佐藤が素直に、かわいいな、と思えたから。 「ズッキー……ちがった、鈴木先輩の件。普通にパワハラだと思うぞ、それ」 「え、でも……」  佐藤はすでに辞める意思を固めていたんだろう。 (……こうやって……)  オレは少し前のことを思い出していた。  まだ風化してはいない、前職の会社での同僚のことを── (……本当に真面目で、健全で、優秀な人材は……こうやって大きな組織から消えていくんだな……) 「はっきり言うと角が立つから、ちょっと工夫しないとな……」 「え、でも、汐見さん、部署違うんじゃ……」 「まぁ、そうだけど……ヘッドハンティングしてくれた先輩が……」  オレは本当に周りの人間に恵まれてるな、とつくづく思う。  人間関係でそこまでの泥沼はまだ経験していなかったから。 「ここの取締役と仲がよくて……って、これ、オフレコだぞ」 「え? あ、はい……」 「オレなんかの力でどうにかできるものじゃないとは思うが、佐藤さんが辞める必要はないって話だ」 「は、ぁ……」  オレは学生時代から業界では割とハンドルネームが知られていた。  主にVCSという狭い世界の中で。VCSっつうのはバージョン管理システムというプログラミング界隈で使われるツールのことだ。  パブリックコードをUPしたり技術ブログをやってたこともあって、ブラック体制になって死にそうな話をそういった場所で吐露していると、顔を見たこともない様々な人から声をかけられた。  その中で一番面白そうだと思ったのと、リアル知り合いからの紹介なら大丈夫だろうと、この会社に転職したのだ。  その時に声をかけてくれた先輩が、この会社に口利きをしてくれた。  大学の先輩ではあったが、先輩と言っても実際には10歳以上離れていて、その人自身はすでに独立起業していた。  本当は自分の会社に呼びたいが、まだ満足に給料が支払えないから残念すぎるけど君をあの会社に紹介したい、と言われて磯永(この会社)に転職を決めた。  自分の影響力が全く及ばない組織で下働きさせられると削られるだけだ、と以前の会社で痛感したので、転職情報には慎重にアンテナを張っていたところだった。 (その時のいろんなことが……こんなところで人助けできることにつながるとは、なぁ……)  人の(えにし)──というのは不思議なものだ。  そう、思った。
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