014 - 入院

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 汐見は昼食の配膳を迎えると (朝食もそうだったし、聞いたことはあったが……病院食は全然食べた気にならないな……)  薄味、かつ少量の昼食を10分で平らげ、警察が来るという13時までどうするか思案していると 「汐見さん、ちょっと……」  柳瀬がひょっこり病室に顔を出した。 「? どうしました?」 「お昼、終わりました?」 「はい」 「えっと、じゃあ、ベッド今のうちに移動しちゃいましょう」 「??」 「警察の方が来るんで、8人の大部屋はちょっとまずいんですよ」 「ああ! そ、そうですよね!」 「まだ椅子に座りっぱなしとか立ったままなのはよくないので。時間も向こうは30分程度とは言ってたんですが、わからないでしょ?」 「あ、ありがとうございます!」  柳瀬の看護師らしいというか、とにかく周到な心遣いに感謝した。 「お話されてる最中に倒れられたら大変ですしね」 「そうですよね……えっと、じゃ、僕はどこに……」  汐見はスマホを持って起き上がり、ベッドから退()こうとすると、柳瀬はそれを制してベッドに横になるよう促す。 「大丈夫ですよ。この病院のベッドは全部ストレッチャー式になってるのでそのまま移動できるんです。横になっててください」 「あ、はい……」  言われて横になると、ガラガラと音を立てて移動しながら柳瀬が流れを説明をする。 「とりあえずですね、今オペ中の患者さんが入室する予定の個室を使わせてもらえることになったので、3時くらいまでは大丈夫です。警察の方が退室したらナースコールで僕を呼んでください。そしたらまた移動しに行きますんで」 「もう歩けるのに……」 「僕の仕事なので。気にしないでください」  にっこりと笑う柳瀬に、こんな体重のある自分をストレッチャーに乗せて移動させていることが悪い気がして、汐見は恐縮する。 「そうかもしれないですが……」 「気分悪かったりしませんか? 大丈夫ですか?」 「大丈夫です」 「そういえば、ICUの帰りに言ってたケーブル? 電気系に詳しい看護師がいて、いつも持ち歩いてる、って言ってました」 「え? そうなんですか? 今、お借りすることとかってできます?」 「あ、大丈夫だと思います。後で持ってきますね。あ、と~……」 「?」 「ん~……」 「どうしたんですか?」 「……なんかですね~、僕は見てないんですが、ついさっき、ナースステーションに『汐見潮の身内のものです』と言ってる方が来てます、と連絡があって……」 「え?!」 「身内の方って……警察の方の後に来られるんですよね?」 (あんのバカ!)  汐見は佐藤に送るLIMEのタイミングを間違えたことを悟った。 (仕方ない……) 「実は……お昼前にLIMEで連絡したんです。4時くらいに、って送ったんですが、心配で来てしまったんだと思います。……名前、言ってましたか?」 「あ、はい。ちょっと待ってくださいね」  柳瀬はポケットから小さなメモを取り出した。 「佐藤……えーと、カンジさんとおっしゃってたようです」 「すみません。身内です……」  申し訳なさと居た(たま)れなさに同時に襲われた汐見は、移動したばかりの病室内をぐるっと見回す。  大部屋と配置はあまり変わらない。ベッドの脇に棚が置いてあり、プリペイドカード課金で電源が入るテレビが置かれている。そして、ベッドの正面、天井近くに時計がかかっていた。  13時まであと30分。 (適当なこと言って、警察が来る前に帰らせるか……) 「……どうします?」 「……通してもらえますか?」 「……警察の方が来られたら……」 「それまでには帰そうと思います」  心配そうな表情の柳瀬に、汐見は苦笑しながら頭を()く。 「心配性なんですよ。いい歳したおっさん同士なんですが……」 「まぁ、身内でしたら心配するのは当然ですよ。わかりました。じゃあ、病室移動しちゃったんで、こちらにご案内しますね」 「すみません。お願いします」  そう伝えると、汐見を移動させた個室を後にして柳瀬はナースステーションに向かった。 「何も言ってこないと思ったらあいつ……!」
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