014 - 入院

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 6月25日(土)の朝。佐藤は──  開院しているだろう時間を見計らって心当たりの総合病院に片っ端から電話をかけまくった。そしてその全ての病院から『申し訳ありません。患者様の個人情報になりますので、お答えできません』の一点張りをくらったのだ。 (……甘かった……これだともう汐見から連絡が来るまでは動けないってことじゃないか……とにかく、汐見から連絡が来たら病院に向かおう。もしかしたら今日、泊まり込む可能性があるな。〈春風〉も病院だとすると、汐見に必要そうな何かを……)  そう考え、旅行にでも出かけるような小型トランクに、入院に必要だろうと思われる病院宿泊グッズをガッツリ詰め込んでLIMEを睨みながら待機していた。  すると、本当に予告通り、昼前に汐見からLIMEが来た。 『悪いな、佐藤。午後イチで人と会う約束があるから、4時くらいに来てくれ。T病院のB病棟の405号室にいる。一応、ナースステーションに【身内のものです】って言ってから来いよ』  そのメッセージを見た瞬間、玄関に向かいながら『わかった』とだけ入力し、佐藤は鬼の早さで行動を開始した。  電車に乗って移動時間を浪費するのすらストレスに感じたため、速攻で目の前のタクシーを止め、救急車が30分かかった病院への道のりを、32分で到着させた。  総合受付では特に何も言われずに通り過ぎることができたが、流石に入院病棟はそうは行かずに見(とが)められ、B病棟4階のナースステーションで捕まった。汐見に言われた通り【汐見潮の身内】です、と伝えたら、本人に確認しますのでそれまでお待ちください、とナースステーションで足止めされた。  そのナースステーションでは空前の美形イケメンの登場に、ナース全員が色めき立つ。  程なくして、パタパタと1人の若い男性看護師──柳瀬が現れた。 「お待たせしました、汐見さんご本人に確認取れました。ちょっとお待ちくださいね」  そう言った柳瀬が同僚の看護師から汐見に頼まれたものを受け取ってから 「こちらです」  ナースステーションのすぐ裏手の廊下を案内する。柳瀬の方は (モデルみたいな人だなぁ……強面の汐見さんの身内にこんな人がいるなんて……)  と思いながら個室だけの廊下──4−C号室に案内しようとすると 「? 405号室と聞いたんですが?」  綺麗な細長い指先で顎をつまんで(いぶか)しむ佐藤の姿を見て、違和感を感じた。 「……えっと、個室に移動させてもらったんです。……何か聞いてませんか?」 「お昼後に人に会う予定があるから、4時に来い、とは言われたんですが……心配で」 「……」  これは、と察した柳瀬はすぐ 「すみません、ちょっとお待ちくださいね」  至近距離ではあるが、今、汐見がいる個室に移動して聞きに行くよりは手っ取り早いし怪しまれないので、急いで個室にいる汐見にコールした。 「汐見さん? もしかして、佐藤さんには警察のこと、お話されてないんですか?」 『……わかっちゃいましたか……』  電話口から心配げに聞く柳瀬に、ため息をつきながら汐見は答えた。 (やなせくんは思ったより勘のいい人らしい) 「どうします? ここで足止めしますか?」 『……いや、いいです。僕で対応しますから、通してください。ただ、後で何かあったら協力してもらってもいいですか?』 「もちろんです! ……でも、佐藤さんがいる間に警察の方が来られたら、どうします?」 『その時は……今みたいにコールしてもらってもいいですか?』 「わかりました。じゃあ、ご案内しますね」 『ええ、お願いします』  柳瀬から連絡を受けた汐見は胸を撫で下ろした。  急(ごしら)えではあるものの、病院側の人間と協力体制を整えることができたのは助かった。(佐藤にも話すべきことではあるが……)と考えていると バンっ! と扉を開いて姿を表した佐藤が 「汐見!!」 「……おぅ、佐藤、お疲れ」 「お疲れ、じゃないッ! こンのッ! バッカやろっ! 心配かけさせやがって!」 「……すまん。いや、悪い……」  物凄い剣幕で目を潤ませているのを見た汐見は、佐藤に満面の笑みを向けた。
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