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(? この人たちって??)
「やなせくん、ありがとう。後はこっちでやります。何かあったらすぐ連絡してください。僕の方からもお願いしたいことがあればナースコールするので」
「わかりました……あ、あとこれ!」
柳瀬が頼まれていたケーブルを汐見に手渡した。
「気分悪くなったりしたら、すぐ呼んでくださいよ!」
「了解です。ありがとう」
そう言って、柳瀬は個室を出て行った。睨め付けるように汐見を見ていた佐藤が意識的に声を低くして聞いてきた。
「……心配かけさせやがって……どういうことか、説明してもらおうか」
どこかで聞いたセリフだな、と考えていた汐見は(ああ、オレが昨夜、紗妃に言ったセリフか……)と思い出した。
「……まぁ、結論から先に言うと」
佐藤の涙目に申し訳なさを感じた汐見は、自分より10cmも長身の佐藤の頭を撫でたくなる。
「オレが刺されて、紗妃が頭を打った、ってことだな」
結果だけ述べる。それも簡潔すぎるほど簡略化して。
「……他に言うことは……」
「……何から話せばいいのか……」
「お前……紗妃ちゃんと夫婦仲良かったんじゃないのか?」
「……夫婦、か……」
汐見は大きく息を吐き出した。
「なぁ、佐藤、【夫婦】ってなんだろな」
「? 汐見?」
「……オレは……」
すると、いきなりコール音が鳴り響いた。観念した汐見はそのコールに出る。
「はい……はい……わかりました。いいです。通してください」
そう告げると、汐見は、はーっとため息を吐き出した。
「? 午後に会うって人か?」
「ああ、そうだ。お役所仕事でも10分前行動することがあるんだなぁ……」
「? 俺、席外した方がいいか?」
「……いや、いい。どうせお前にも話さないといけないことだ。二度手間になるから、そのままいてくれ。向こうが了解して、お前も良ければって話だが……」
「? 俺が良ければ? って?」
「……まぁ、来たらわかる……」
コンコン、と控えめなノックの音。
(移動した個室で来客を迎える? 役所?)
不審に思った佐藤がベッドで動けない汐見の代わりにドアを開けた。
「どうも」
ぬっと最初に入ってきたのは佐藤よりもでかくて厳つい顔をした男。続いて、でっぷりした腹を抱えた暑苦しそうなおっさん。の2人組で、2人とも人相が悪い。
「?!」
びっくりした佐藤が、汐見の顔とその2人組の男たちを見比べていると、でっぷりした腹の男が佐藤を見て話しかける。
「え~と、汐見潮さん? はどちらでしたっけ?」
「はい、私です」
汐見が手を挙げて応え、佐藤は今何が起こっているのか突然の出来事で頭に疑問符を飛ばした。
「で。こちらの方は?」
「……僕の……親友です」
「部屋に身内の方がいます、とお聞きしたんですが? ご友人は身内とは言わないんですけどねぇ」
「……ご存知の通り、僕にはもう妻以外に身内はおりませんので」
「??」
佐藤が汐見の顔を見る。汐見は僅かに眉根を寄せて佐藤を見返した。
すると、でっぷり腹が憮然とした表情で佐藤の頭から爪先までを一瞥した。
「そう、ですな。で? この方も立ち会うんです?」
「差し支えなければ、彼にも聞いてもらいたいんですが」
「……ま、いいでしょう。裏で協力して秘匿されたり隠蔽工作されるよりはね」
でっぷり腹が尻ポケットから皺くちゃのハンカチを取り出し、額の汗を拭う。
ちら、と室内を見回したでかい男が、部屋の隅に重ねて置かれた5脚の折りたたみ椅子のうち3脚を摘み上げ、1人に1脚ずつ手渡した。佐藤にも。
でっぷり腹の男が手で指示を出し、汐見のベッドを取り囲むように汐見に向かって右手に2人組、窓際の反対側に佐藤だけが座った。
でっぷり腹が口火を切った。
「さて、どこから聞きますかね?」
「……刑事さんの聞きたいところから」
「?!」
この2人組が刑事、と理解した瞬間、佐藤は驚愕の表情で汐見を見た。
汐見は【刑事さん】と言った2人組に挑むような眼差しを向けた。
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