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ー 悲しい小鳥 ー
でっぷり刑事は指揮官にでもなったように話すと、点滴処置を終えた柳瀬をジロリと一睨みして退室を促す。
それにも怯まない柳瀬が
「あまり無理はしないでくださいね! 怪我人なので!」
患者の体調第一! と牽制した。
「……んん、おほん」
「……点滴……大丈夫ですか?」
我関せずなでっぷり刑事と違って、大男刑事は割と人間らしいようだ。
「あ、あぁ、はい。大丈夫です。よね? やなせくん」
「あ、はい! えっと、滴下が終わったら呼んでください。お話、中断させちゃうかもしれないですが……」
「ああ、それは構わんよ」
柳瀬は目を眇めて横柄なでっぷり刑事を見た後、汐見に向き直って笑顔で
「はい、じゃあ、僕はまた後で!」
元気よく退室した。2人組の刑事も少しリフレッシュしたような顔をしていた。
「まぁでも残りはリビングで1人になった奥さんが何を言ってたか確認するだけ、ですな?」
「……えぇ、そう、です……」
汐見のそれは元気がないというより、覇気の無い声だ。
「そういえば、音声だけのデータってことはマイクが別のどこかに?」
「はい。夫婦でよく会話するのはリビング……食事の席でのことが多かったので、テーブルの天板を少しくり抜いてセットしてました。音感センサー付きのものを自作して……音がすると録音が始まるんです」
「はぁ~、最近は便利ですな~。そんなものが警察じゃなくても入手できてしかも自分で作れるとは……しかし、まぁなんですか汐見さんはそういうこともお仕事で?」
「いえ、仕事ではそういうのは……一応エンジニアの端くれですし……そういう電子機器や機械工作は好きな方なので……」
仕事熱心なエンジニアで物作りが嫌いな人間はそうそういない。だからそういった事に手を出すのも苦ではなかった。なので低予算かつ自分の勉強にもなる、とBlueberryPiというマイクロPCを使った電子工作に必要な部品やソースを足して自作した。ただし、データ容量が今ひとつ足りず1週間程度しか蓄積できないのが玉に瑕だ。
は~っと、一息ついた後、でっぷり腹刑事・米山が
「じゃあ、始めるとしますか。音声データの方を再生してもらって……」
そう言うと、大男がでかい手を自分の顎にかけて質問した。
「その……音声だけだと、奥さんの状況ってよくわからないと思うんですよね。何かそういうアレってできないですかね?」
「アレ? とは?」
要領を得ない質問をした大男に汐見が質問で返す。すると佐藤が
「……映像……動画と音声を被せられないか、ってこと、ですか?」
こう言いたいのではないか? と合いの手を入れる。
「ああ! そう! そういうヤツです!」
「被せる……合成ってことか?」
「そう、そういう感じの、合成です!」
汐見が佐藤に確認するように顔を見上げると、喜色満面になった佐藤がようやく自分の出番だとばかりに自分のスマホを取り出した。
「多分、えっと、待てよ。俺そういうのできるアプリ持ってる」
「へぇ、お前、そんなもの使ってるのか。意外だな」
「はは、まぁな」
(お前にも、ましてやこの2人(刑事)には絶対に言えないけどな……色々やっちまってるから……)
いわゆる警察に言えばお縄になるような色々、だ。
ともあれ、その動画と音声を合成するアプリを紹介し、すぐさま汐見のスマホにダウンロード後インストールした。
佐藤が若干の操作説明を加えていると汐見が刑事に聞く。
「必要なのは紗妃……妻が1人リビングにいるところ、だけで大丈夫ですよね?」
「ああ、そうですな」
そう答えられ、佐藤が汐見に確認した。
「5分くらい? だったら多分スマホでも数分でコンバートできると思う」
「そうか?」
コンバートとはデータや信号などをある型式から別の形式に変換する処理のことだ。秒単位まで動画の時間を確認し、必要部分だけ切り取ってコピーする。そして、他のクラウドから見える音声データの日時を確認して、その時間分だけをまた秒単位でコピーする。
それらをアプリの画面上、定位置に貼り付けてコンバート開始。
待つ事3分。
即席で、音声データつき動画が完成した。
「……すごい。最近はスマホでこんな事もできるんですね…」
興味津々で操作を覗き込んでいた大男が関心して言った。
「さて、じゃあ、観てみますか」
「……はい」
何気なく汐見の顔を見た佐藤は、汐見が泣きそうになっているような気がした。
そして──音声付き動画が再生された────
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