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002 - 繁忙期を過ぎて
担当している取引先がバタつくと巻き込まれる形で俺たち営業の人間も多忙になることが多い。
相手からの発注に応えてあれもこれもと取引先の仕事をこなすのも営業の仕事の一部ではあるからだ。
「しっかし、資料作成ばっかで2ヶ月とか、ありえないって……」
誰にも聞こえない音量で愚痴を漏らし、俺は昨日まで作成してたドキュメントデータの整理とバックアップを終えた。
担当取引先の会社が、その社始まって以来初の【官公庁からの直請け】だったため、急な発注が相次いだからだ。
取引先の中の人が一番大変だっただろうが、こう、なんつうの? なんでお上ってこんなに書類を要求するんだろうね? 嫌がらせ? ってくらいの資料作成をお手伝い──代わりに作成──していた。
それも、昨日までの話。
とりあえずその雑用──派遣先の仕事みたいなもの──がようやく終わり、お役所様の指示待ちになったので今日からやっとゆっくりできるって算段だった。
今日は定時で上がって、久しぶりの友人と飲んで帰るつもりだ。というのも、3日前、まるで俺の仕事が一段落するタイミングを見計らったかのように連絡が来たのだ。
「はー……つっかれた……俺ちょっと休憩な」
「あ、はい。先輩、自販機コーナー? ですか?」
「あー、そんなとこ」
隣席の男の後輩に離席をことづけて席を立って部屋を出る。
うちの社屋は南に面したガラス張りの細長い建物で、所属課の部屋から出て歩いて2分くらい先の左手に喫煙所がある。
その区画をさらに2分ほど歩くと自販機の区画があるわけだが──
(あいつ、最近、喫煙所で見ないよな……)
喫煙所は中にいる人間が視認できるようガラスで仕切られた部屋になっていて、中央に2機の強力な吸煙機が設置されている。
俺はいつもさりげなさを装いながら、目当ての人物がいないか横目で確認しつつ喫煙所を通り過ぎるのが日課だった。
(いない、か……まぁ朝一番だしな……)
俺の部署とは違って、あいつの部署はたしか10時出勤だ。
今が10時ちょうどだから出勤したてってことになる。
少し残念に思いながら、でも糖分補給は大事だし! と気を取り直して自販機コーナーに向かう、と。
そこに──明らかに会社に泊まり込んだ痕跡を残した特徴的な寝癖が直らない、腰に近い位置にある尻肉がとびきりかわいい──お目当ての後ろ姿を見つけた。
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