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 十一月一日、火曜日。いつものように飛び起き、準備をして出かける。また記憶通りの一日を過ごしながら、朔夜は考えていた。  明日は、槙人と喧嘩別れする日だ。昨日は少し光明が見えた気がしたけれど、本当に今の状態で大丈夫なのか、分からなくなっている。  どうして、槙人はこんなに穏やかなのに、『あの時』は激昂したのだろう? 「……ん? 朔夜どうした?」 「何でもない……」  そんなことを思っていたら、当の本人に不審がられてしまった。視線を元に戻すと、看板のイラストを塗っていく。授業の合間にこうして準備をしているけれど、考えごとをしていてなかなか進まない。 「何だー? 朔夜もついに春が来たか?」  そう言って肩を組んできたのは一誠だ。いきなりの接触に朔夜の心臓は飛び跳ねる。 「あ、あはは……そうかも」  驚いた心臓を宥めながらそう答えると、一誠はからかってきた。長年一緒にいたのに、浮いた話がなかった朔夜もついに恋をしたんだなー、とニヤニヤしながら身体を揺さぶられる。 「誰だ? 朔夜の好きなひとって」  お前だよ、と喉まで出かかったのを何とか止めて、適当に誤魔化す。一誠は「秘密主義かよー」とぼやいてあっさりと引いた。  言いたくないなら聞かない、と一誠は思っていたのかもしれないけれど、さらに食い下がろうとするほど朔夜に興味がない、と捉えることもできる。彼の優しさなのか、それとも単に興味がないのか分からず、ほかの友達の元へ行く一誠を見つめていると、視線を感じてそちらを見た。 (……え?)  目が合ったのは槙人だ。彼はニコリと笑うと、そのまま視線を逸らす。  記憶では、自分はずっと名残惜しそうに一誠を見つめていたはずだ。『当時』も、槙人はこちらを見ていたのだろうか。 だとしたら、これは大きな変化だ。  一誠ばかり見ていた朔夜が、周りの視線に気付いたのだから。これは、一誠から少し距離が取れた、ということにならないだろうか。 (これなら……)  これなら学祭当日、本当に告白せずに過ごせるかもしれない。  そう思って朔夜は看板の作成を続ける。  大丈夫。きっと大丈夫だ。不安が入り混じる期待をしながら、看板を塗っていった。
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