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１１ 後日談３
「ねぇ、質問に答えてもらってないけど？」
パンパンと、槙人の腰が打ち付けられる音が高く響く。朔夜は声も上げられず歯を食いしばり、視界が明滅するほどの快感に耐えた。
「……ッ！ 槙人、だけ……！」
「……そう。ならいいけど？」
途端に首筋に痛みが走る。感触からして噛み付かれたらしいというのはわかった。けれどそんな痛みさえすぐに興奮と快感に変わり、朔夜は腰を震わせる。
「ほら、すっごい……締まってるよ？ 朔夜は上の口も、下の口も正直だね。……かわいい」
「ん！ んんんんーッ！」
耳元でわざとそう言われ、朔夜は背中を仰け反らせた。それでもやっぱり槙人は止まらず、強く打ち付けてくる。後ろが熱くて、そのまま全身が溶けるかと思った。
「……ただ、煽った責任は取ってもらわないとね」
槙人はそう言うと、耳朶を舐めてくる。途端にまた全身が痙攣し、朔夜は意識が飛んだ。
――良かった、と朔夜は思った。
自分の前では素でいて欲しい。そう思ったから。こんなに激しく自分を求めていたとわかり、朔夜は喘ぎながらも彼の身体に腕と足を絡ませる。
「ああああ……っ！」
ひときわ強く穿たれ、強烈な刺激に朔夜の視界がブラックアウトする。気が付いたときには、槙人が目を細めてこちらを見ていた。どうやら少しのあいだ、気を失っていたらしい。
「大丈夫？」
息を切らした彼が頬を撫でてくる。それにすらも身体がビクついて、槙人は眉を下げた。
「ちょっとやりすぎちゃった」
謝ってくる彼に対し、朔夜はなんだか笑えてしまった。力が抜けた笑みを見せると、槙人はホッとしたのか、苦笑する。
「煽ったのはオレだからいいんだけど。……いない相手に嫉妬するとか、どんだけなの……」
「ごめん……」
朔夜がこんなふうに煽ったのは初めてだったから、槙人は余計に火がついたのかもしれない。そう思うと、好かれているなあ、と感じるのだ。悪くないと思う。
「すごくかわいかったから、つい……」
「うん」
引いてない？ と聞かれ朔夜は笑った。ただ単に、優しくて穏やかだけじゃない彼だと知ったいま、なぜだかそちらのほうが人間味があって良いじゃないかと思う。
「引いてない。オレも、槙人の本心を曝きたかったから」
優しい槙人も好きだけれど、それが遠慮しているのでは、と思い始めたのは最近だ。触れ合うごとにそれは確信になり、発破をかけてみたら想像以上だったけれど。
でも、それも彼がずっと本心……朔夜への恋心を隠して自分と接してきたからだ。いい人を演じる必要はない、と朔夜は彼にキスをする。
「……もう。ますます好きになる」
「いいんじゃね？ それで」
それで悪いことなんか、一つもない。今まで想いを隠して見ているだけだった槙人が、両想いになれて、今まで通りに振る舞っているほうがおかしかったのだ。
「……吹っ切れた朔夜は思った以上に大胆で男前だった」
まさか、一誠に言うとは思わなかったし、と槙人はようやくここで朔夜から抜け出す。その感触に朔夜は呻いたものの、すぐに覆いかぶさってきた槙人に抱きつく。
「……うん。オレも本来はこんな奴だよ」
一誠への気持ちを隠すあまり、告白したい気持ちとバレたら怖いという気持ちで、思うように動けなかった。でも、本当はこうなんだ、と好きな人に見せられたなら、もう怖いことはない。
「……引いたか？」
「ううん」
それならいいよな、と槙人にキスをする。そのまま舌を忍ばせると、すぐに深い口付けに変わった。
「槙人……も一回……」
「……っ、もう……だからどこで覚えてくるのそういうの」
今まで我慢していたぶん、性欲が爆発してる、と囁くと、槙人はかぶりつくようなキスをくれる。しばらくそんなキスに浸り、唇がふやけると思ったころ。ちょっとゴムを変えるから、と起き上がった彼を見たら、萎えていなくて朔夜は笑った。
「……これからもよろしくな、槙人」
「こちらこそ」
そう言って笑い合い、また慈しみ合う。甘い空気に浸っていく。
時を巻き戻したおかげで見えたもの。槙人の朔夜への想いと、一誠の本来の優しさだった。不思議な体験だったけれど、得られたものは大きかったので、感謝しかない。
（いつか、不思議な時計の話も槙人にできるといいな）
そう思いながら、朔夜は槙人に回した腕に力を込めた。
【完】
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