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7
槙人がこんなに激しい感情を隠していたなんて、知らなかった。身体の全部を撫でられ、声を上げそうになると、彼の唇で口を塞がれ苦しくなる。
あれから、大学のすぐ近くにある槙人の家に連れていかれた。その道中に彼は一誠に連絡を入れ、朔夜を病院に連れていくと言っていて、よくもまあ、穏やかな顔をしながら嘘をつけるものだと感心してしまう。でも、全然嫌じゃないと思った自分に呆れた。
そして槙人の家に着いた途端、貪るようなキスをされ、そのままなだれ込むようにベッドに倒れる。お互い熱が欲しくて朔夜も積極的に槙人の服を脱がし、あっという間に身体の内側からの熱に抗えなくなった。
「……壁、薄いから声我慢して……」
ごめんね、つけ込んで本当にごめん、と槙人は何度も呟いていた。そして、これ以上朔夜が思い詰める姿を見たくなかった、とも。
朔夜は合点がいった。時を遡る前、槙人はこれ以上、一誠のことで苦しむ朔夜を見たくなかったから、あんなに怒ったのだな、と。
こんなに心配してくれていたのに、全然気付かなかった自分が恥ずかしい。少し考えれば、好意には気付かずとも、心配されていることくらいは分かりそうなのに。本当に一誠のことしか見ていなかったのだな、と思う。それで思い詰めて自爆したのだから、世話ない。
「……っ」
槙人の指が胸を掠めた。途端にじわりじわりと熱が上がっていき、朔夜は手の甲で口を塞ぐ。その様子を見た槙人は、愛おしそうに目を細め、今しがた撫でていた胸に顔をうずめた。
「……っ、ん!」
ひく、と腰が動く。切っ先が槙人の腰に当たって、それも刺激になって切なくなる。槙人は貪るという言葉そのものの愛撫で、朔夜をさらに熱くさせていった。
「ま、槙人っ」
朔夜は槙人を呼ぶと、自分でも恥ずかしくなるくらい切なく掠れた声が出た。胸から唇を離した槙人は、深く舌を絡ませたキスをくれる。
本当に槙人には甘えてばかりで、こんなところまで甘えていいのだろうか、と思う。一誠への恋が成就しないからって、槙人と付き合うとか、都合がよすぎないか、とも思った。けれど槙人があまりにも優しく朔夜を見ていたから、彼の気持ちに応えたい、と強く思ったのも事実だ。
「ふ……っ」
溢れた唾液が口の端から零れる。お互いの存在を確かめるように肌を撫で、朔夜は両膝を割られた。
「あ……」
足の間に入った槙人は、いつもの優しい顔ではない。激しい欲情を湛えた、男の顔だ。
そっと、槙人の指が秘部の奥へと入ってくる。本来はそういう目的で使う器官ではないので朔夜が顔を顰めると、ごめんね、と申し訳なさそうな顔で槙人は言うのだ。そんな槙人を見て、朔夜は胸がきゅう、と苦しくなる。
ああ、このひとはまだ、自分の弱ったところにつけ込んでいると思っている、そう感じた。
「違う……槙人……」
朔夜は腕を伸ばし、槙人の頬を両手で包む。
この、優しいひとのそばにいたい。一誠の隣じゃなく、槙人の隣にいたい。そう思って言葉を紡ぐ。
「オレ、槙人が好きだよ……。都合がいいって思うかもしれないけど、ちゃんとオレを見てくれる、槙人が……ああっ!」
「朔夜……っ」
急に槙人の指が動き出し、朔夜の手はベッドに投げ出された。すかさず槙人の指がその手に絡みついてきて、激しく唇を吸われる。
「んんっ! んんんんーっ!」
強い刺激に思考が白く霞み、声もなく首を逸らして喘いだ。悲鳴のように短く出た嬌声を、飲み込む勢いで槙人がキスをしてくる。苦しくて、でもそれがよくて、朔夜は繋いだ手を強く握り返す。
「朔夜……っ」
槙人の声が揺れる。溶け始めた意識で彼を見ると、予想通り目にいっぱい涙を溜めていた。
普通のお付き合いとは、まだ心の繋がりは浅いかもしれない。でも、お互い大事にしたいという気持ちは一緒だ。朔夜の中に芽生えた槙人への気持ちは、この短い間でも急成長している。
朔夜は笑った。
「これじゃあ、どっちが慰められてるのか分かんねぇな……」
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