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「どう?」
頭の芯がぼんやりとしてきた頃、リディーが唇を離した。
「どうって、そんなのわかんないよ」
「トーゴったら赤くなってる」
耳のあたりが熱くなっているのは、自分でもわかっていた。
「すっごく真っ赤」とリディーはお腹を抱えて笑う。
僕はムッとして背を向けた。
「ねえ、怒ったの?」
背中から腕を回し、肩越しに僕を覗き込んでくるリディーにひとりだけドキドキしている自分が腹立たしい。
「キスの仕方を教えてくれるって言ったよね。それなら今度は僕からしてもいいよね」
振り返った僕は、目を見開いて後ずさりをするリディーの肩を掴み、壁に押し当てた。
リディーの目を見つめると、彼女は焦ったように僕の胸を押し返す。
「ちょっと待って」
「嫌だ。リディーが先にしようって言ったんだから、今更ダメだよ」
唇を近づけると、彼女は一瞬泳がせてから、強く目を閉じた。僕は少し強引に唇を合わせた。何度も繰り返し唇に触れると、頭の中にじわりと痺れる感覚が広がっていく。甘い香りに溶けてしまいそうだと思う。
ゆっくり唇を離すと、リディーが静かに目を開けた。その表情に吸い寄せられるように、離した唇をもう一度合わせようとしたら、彼女が僕の胸を押した。
「もう! 初めてだなんて絶対に嘘でしょ」
嘘なんて言っていなかったけれど、リディーが動揺しているようで、胸がスッとした。
「そろそろ帰るよ」
「今日も撮れなかったけど、また付き合ってくれる?」
「僕でいいならね。また来月でいいの」
「うん、待っているから」
僕はリディーの頬にそっとキスをした。彼女は何か言いたげな目をしたけれど、気づかないフリをしてアパルトマンを出た。
本当はもう少し、傍にいたかった。でもこれ以上いたら、自分の気持ちを押しつけてしまいそうでやめておいた。
暮れ始めた空に、薄らと月が浮かんでいた。徐々に太陽の沈む時間が早くなってきている。それでもまだ、夜の訪れは八時を越えてからだ。
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