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無理やり自転車の二人乗りをさせられてやってきたのは、シャンゼリゼ通りにある大きな公園だった。ベンチに座って本を読む人、ジョギングをする人、日陰で眠る人。皆思い思いに過ごしている。
「好きにしていていいから」
彼女はそう言って、カメラのファインダーを覗き込む。
「好きにって、写真を撮るんじゃないの」
「撮るけど、普通にしていてくれていたほうがいいの。カメラがあることは気にしないで」
カメラからひょこっと顔を覗かせて、リディーは言う。
普通にと言われても、からだに力が入ってぎこちなくなる。
「堅くなりすぎ。いつもみたいに何もかも面倒でだるいって感じでいいの」
「何それ。僕ってそんなふうに見えるの」
「知らなかったの? でも、そんなところがトーゴの魅力だから気にしないで」
僕を振り回してばかりいる彼女を少し困らせてやりたくなった。
「じゃあ一緒に走ろうよ、ほら」
カメラを構えているリディーの手を掴んで、公園を走り出す。初夏の風が木々の緑を揺らし、耳に心地よい音を立てている。
「ちょっと。トーゴ早い! 待って」
からだを押すような風が気持ちいい。僕はリディーの声を無視して、夢中で走った。
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