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曲が終わるとリディーが僕に飛びついてきた。
「凄い! 聴き惚れちゃった」
香水の甘い香りに頭の中がくらりと揺れる。冷静を装ってからだを離し、やましい気持ちを追い出すために左右に頭を振った。
「寒いの? 写真はまた今度にしよ。来月の第一土曜日に図書館で待っているから、来て」
リディーは太陽のような眩しい笑顔を僕に向けた。
「行けたら行くよ」
曖昧な返事をして、僕は自転車にまたがり、ペダルをこぎ出した。カゴの中で、ガタゴトとトランペットのケースが音を立てる。
後ろからリディーが大きな声で叫んだ。
「トーゴ、約束だからね!」
僕は振り返らずに手を振って、そのままペダルを漕いだ。
パリの日没は遅い。僕はまだこの明るい夜に慣れることができずにいたけれど、今日は、いつもより街が美しく見えた。これはリディーが見せてくれた魔法なのかもしない。
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