日本三景の七月

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「最初ほんとに男か女かわかんなくてや、館長が“くん”って読んでるから男なんだべなー、でも男女関係なく“くん”付けしてんだべかーって。でも赤間さんは赤間さんって呼んでっちゃ?じゃあ後藤君は男なんだべなーって思ってや」  それから岩佐さんは小さく溜め息をつくように息を吐いた。「付き合いたいかどうかは俺でもよくわかんない。男好きになったことなかったし。だから返事はしなくていい。とにかく、俺が気紛れで後藤君に絡んだり心配してるわけじゃないってことだけわかって欲しかったんだっちゃ」  岩佐さんが静かに立ち上がる。僕はそれを見ていることしかできなかった。岩佐さんは「早く元気になってね」と言ってその場を立ち去った。玄関の扉を開け閉めする音が聞こえた。  僕は残ったゼリーを飲み物のように喉に流し込んだ。容器とスプーンをゴミ箱に放り投げて布団に倒れ込んだ。気温が下がっていつの間にか蝉は鳴き止んでいた。
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