日本三景の七月

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 犬や猫を飼うのと同じだ。飼いたいから飼っている。僕はハッキリとした答えを出せずにゼリーを口に入れてごまかした。 「手首、どうしたのっしゃ」  その質問にも答えなかった。わざとゆっくりゼリーを食べた。岩佐さんが少し俯く。 「俺、後藤君のこと心配してんだよ」 「すみません。大丈夫です」 「すみませんとか大丈夫とかじゃなくてさ」  じゃあ何を言えばいいんだ。どうして僕が責められなくちゃいけないんだ。岩佐さんは「うーん」と呟き何かを躊躇うように頭を掻き胡座をかいた膝を軽く叩いた。それからまた頭を掻き最後に顔を拭うように擦って「このシチュエーションで言うことじゃないんだけど」と口を開いた。「このままだと後藤君が遠くさ行っちゃう気がすっぺし言うね」  改まってそう切り出されると怖くなる。「なんですか」と言ってからゼリーを口に含んだ。 「後藤君のこと好き」  まだ飲み込むつもりじゃなかったゼリーがツルンと喉を通った。咽るのは我慢した。 「初めて会った時から見た目タイプだなって思ってた。だから多分、一目惚れ。一応言っとくけどライクじゃなくてラブの方ね」  まだ三分の一ほど中身を残したゼリーのカップを膝に置いた。ゼリー食ってる場合じゃない、と流石の僕でも思った。
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