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頭の上に火花が飛び散ってくる。
もうダメだと思った。
胸が苦しくなりながら、しかし見上げてみるとふと美しく感じてしまう瞬間もあった。
俺は今まで何かの役に立って生きてきたのだろうか。考えてしまう。こんな最後を迎えるなんて思いもよらなかったのだ。
細かい火花が体に降ってくる。
逃げればいいのかもしれない。
しかし俺はもう精神的にもパニック状態になっていて、まったく動けなかった。
熱い。
いや、痛い。
いや、もっと違うものかもしれない。
俺はもう自分で立っていられなくなってその場に崩れ落ちそうになった、次の瞬間。
火が消えた。
突然、あっという間に、消えた。
美しくも短い、あの火花。
そうか。
俺はやっと理解した。
あれが線香花火というやつか。
昔誰かに聞いたことがある。
人間がよく夏にやる花火という遊びのひとつだ。
あんなにパニックにならなければ、俺ももう少しは美しく見れただろうか。
とにかく終わったのだ。少しの火傷はあるが、放っておいても治るだろう。
俺は何か運命のようなものを感じた。
もう一度やり直そう、そう決心して自分の寝床に帰り始めたその時。
俺は通りがかりの人間に踏まれ、呆気なく蟻としての生涯を終えた。
ただ、最後の最後に一瞬だけ、美しい火花が散るのを見た気がした。
THE END
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