第1話 アルバイト

1/4

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

第1話 アルバイト

   とあるプラント機具販売の零細企業である株式会社稲本。その野之崎営業所での出来事。  定時である午後4時半に仕事を終えた右松は、後輩の吉平を呼び止め、休憩所で説教をしはじめた。 「バイトするのはいい。副業はやってもいいって社長の許可があるけぇの。けど、ここで仕事しとんじゃけ、バイト、バイト言わずに、ここの仕事を一番に考えろや!」  今年で勤続十年になる右松は、入社二年目の吉平を正面の椅子に座らせ、煙草をスパスパやりながら、見下すように言っている。 蔑むような目で吉平を見ているのだが、吉平は俯いているので、その目を見ずにすんだ。 「はぁ、すみません」  俯いたまま相手の顔を見ることなく返事をする吉平。 返事をしないと、それだけで右松は激怒する。面倒くさいと思いながらも、吉平は聞くように努めた。 「仕事で、遅刻や休みを繰り返してる奴がバイトしたいとか可笑しいけぇの!分かっちょるんか?」  吉平が真面目に聞いていると判断した右松は、先輩風をさらに吹かし、分かり切ったことを、俺が教えてやるとばかりに熱く語る。 「すみません。気を付けます」  その熱意とは対照的に冷静に返事をする吉平。 謝ってはいるが、お決まりの返事のようなもので心は込めていない。 「それから、病み上がりにカフェ・オ・レ?ありえんだろっ!体調悪かった奴が、カフェ・オ・レみたいなモン飲めんじゃろ!」  そんなの人の勝手だろと思うのだが、右松は病み上がりの吉平がカフェ・オ・レを飲んでいたことも許せなかった。 ここぞとばかりに怒鳴りつけている。 「体調悪かったとか、嘘言うなやっ!怠けちょっただけじゃろ!」  吉平の体調を勝手に決めつける右松。 得意そうに、俺は全部知っているのだぞと言わんばかりである。 「ま、いろいろと、ちゃんと出来とけば、何も言わんのじゃけどな」  後輩である吉平には自分の印象を悪くしたくないと思う右松は、これ以上は責めないでおこうと、すこし口調を和らげた。 口調が和らぐと右松の説教は終わる。 それを身をもって覚えた吉平は、 『やっと帰れる!帰ってネットゲームだ!』 そう思い、安堵のため息にも似た返事をしてしまう。 「ふぃい……」
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加