0人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
第1話 アルバイト
とあるプラント機具販売の零細企業である株式会社稲本。その野之崎営業所での出来事。
定時である午後4時半に仕事を終えた右松は、後輩の吉平を呼び止め、休憩所で説教をしはじめた。
「バイトするのはいい。副業はやってもいいって社長の許可があるけぇの。けど、ここで仕事しとんじゃけ、バイト、バイト言わずに、ここの仕事を一番に考えろや!」
今年で勤続十年になる右松は、入社二年目の吉平を正面の椅子に座らせ、煙草をスパスパやりながら、見下すように言っている。
蔑むような目で吉平を見ているのだが、吉平は俯いているので、その目を見ずにすんだ。
「はぁ、すみません」
俯いたまま相手の顔を見ることなく返事をする吉平。
返事をしないと、それだけで右松は激怒する。面倒くさいと思いながらも、吉平は聞くように努めた。
「仕事で、遅刻や休みを繰り返してる奴がバイトしたいとか可笑しいけぇの!分かっちょるんか?」
吉平が真面目に聞いていると判断した右松は、先輩風をさらに吹かし、分かり切ったことを、俺が教えてやるとばかりに熱く語る。
「すみません。気を付けます」
その熱意とは対照的に冷静に返事をする吉平。
謝ってはいるが、お決まりの返事のようなもので心は込めていない。
「それから、病み上がりにカフェ・オ・レ?ありえんだろっ!体調悪かった奴が、カフェ・オ・レみたいなモン飲めんじゃろ!」
そんなの人の勝手だろと思うのだが、右松は病み上がりの吉平がカフェ・オ・レを飲んでいたことも許せなかった。
ここぞとばかりに怒鳴りつけている。
「体調悪かったとか、嘘言うなやっ!怠けちょっただけじゃろ!」
吉平の体調を勝手に決めつける右松。
得意そうに、俺は全部知っているのだぞと言わんばかりである。
「ま、いろいろと、ちゃんと出来とけば、何も言わんのじゃけどな」
後輩である吉平には自分の印象を悪くしたくないと思う右松は、これ以上は責めないでおこうと、すこし口調を和らげた。
口調が和らぐと右松の説教は終わる。
それを身をもって覚えた吉平は、
『やっと帰れる!帰ってネットゲームだ!』
そう思い、安堵のため息にも似た返事をしてしまう。
「ふぃい……」
最初のコメントを投稿しよう!