第1話 アルバイト

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「おはよっす!なんかあったんすか?」  誰とでも分け隔てなく話す人懐っこい性格の本井名が、喫煙室に入るなり右松に聞いた。 「は?」 「いや、なんか暗い顔に見えたんで」  そこへ、本井名と出勤が一緒だった高森が入ってくる。 「おざーす」 入るなり、煙草に火を付け、備え付けの椅子にドカッと腰を下ろす。 スマホを手に取り、毎朝の習慣となっている時事関連ニュースのチェックを始めた。 その間も、右松と本井名は、話を続けている。 「今年もボーナス無いってマジっすか?」 「うん。毎年毎年、期待する方が馬鹿みるけぇ。考えんようにしちょる」 「そうっすか。てっきりボーナス無いんで暗い顔しとると思ったんすけど」 「いや、違うんよ。今日ちょっと体調が悪いけぇ。なんか喉も痛いし」 「大丈夫なんすか?」 心配する本井名の言葉を待っていましたとばかりに即答する右松。 「う~ん……ちょっと休んどく」  「じゃ、午前中は任せて下さい。やっときますんで」 「いやぁ、助かるわぁ」  そう言って、二本目の煙草に火を付けた。 体調が悪く、喉も痛いなんて、とんだ嘘っぱちなのだ。 だいたい、喉の調子が悪いのに、平然と煙草を吸えるというのは可笑しい。 二人の会話が途切れた所に、高森が話に割り込んできた 「そういえば、右松さん。昨日、野之崎のガイオスにいませんでした?」 野之崎市のガイオスというのが、右松がアルバイトしているGSの名前だ。 スマホのチェックを終え、煙草をもみ消しながら高森が聞くと、右松は嬉しそうに答えた。 「うん。そうなんよ」 「そっすよね。いや、信号待ちで車止めたとき、チラッと見えたんで」 野之崎三丁目交差点の真横にあるガイオス。 そのため、信号待ちしていれば、車からでも働いている人の顔が確認出来る距離だ。 「実は、昨日からガイオスでバイトしとるんよ。初日から十時までじゃけぇ、帰ったら十一時。寝たのは一時半じゃけぇ、体調崩したんよ」 なるほどと頷き、本井名が口を挟む
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