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 しかしそれもほんの一瞬。桃太郎が顔を戻し、再び歩き出すとそれは嘘のように消え去った。何てことない平然とした部屋に足音を響かせ桃太郎はそのままドアを出て行く。 「彼の準備の手伝いをよろしくお願いします」  ドアの音が響いても尚、今にも倒れてしまいそうな有真だったがフィスキーの声で我に返ると慌てて姿勢を戻した。 「――は、はい!」  そして敬礼をし桃太郎の後を追った。  一方、一人部屋に残ったフィスキーは閉じたドアを見つめながら静寂に包み込まれていた。そして踵を返すとデスクの方へ歩き出しそのまま外へ視線をやる。ガラス越しの景色をじっと見つめていたフィスキーだったが、口角が上がり始めると段々と笑い出した。声が漏れ――最後は部屋に笑い声を響かせる。  そのまま体を翻しデスクへ腰掛けると、そこで笑いも辺りの静けさに溶け始めた。 「本物の天才……ですか」  デスクへ両肘を立て手を組みながら顔を俯かせては笑い交りに一人呟く。 「ではその歳になっても尚、衰える事を知らない貴方は、敬意を込めて――」  そして顔をゆっくりと上げ、ドアへ鋭い眼差しを向けた。 「本物の化物ですね」  言葉の後、僅かの間を空けるとフィスキーは椅子を回転させ再び視線をガラスの向こう側へ。 「鬼を倒せるのは鬼という事ですか」
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