零章 月は常に太陽と共にあり

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零章 月は常に太陽と共にあり

 切り株の上に木が置かれ、振り下ろされる斧。二つに切り分けられた木が零れ落ちると、また新たな木が置かれ斧が振り下ろされる。切っては置き、切っては置き。辺りには一定の心地好いリズムが響き渡っていた。  その音に交じり一つの足音が斧を振り上げる男の元へ近づいて行った。 「失礼致します!」  男がその声に振り下ろそうとした斧を止め顔を上げると、そこには似合わない敬礼をしたおかっぱの子どもにも見える男の人が立っていた。だがその身に纏った軍服は主が立派な成人男性である事を代弁してもいた。 「桃太郎さんにお会いしたいのですが」  そう尋ねられたのにも関わらず男は何も答えず木へ視線を落とすと斧を振り下ろた。  そして遅れて心地好い音が鳴り響くと切り株に刺さった斧から手を離し視線は軍服の男へと戻る。 「――桃太郎は儂だが?」  長く伸びた白髪を後ろでひと括りにし口の周りに白髭を蓄えた男はその容姿に合った声で答えた。おじいさんと言うには余りにも鍛えられた体格である事は服の上からでも分かる。だが巻き割で微かに上がった息を見る限りその体は確実に老いていた。 「……貴方があの伝説の」  軍服の男は桃太郎を観察するように見ながら相手に届けるには小さな声を零した。 「こんな老い耄れでガッカリしたか?」  近くに置いてあったタオルと飲み物を手に取る桃太郎は笑い交りで意地悪な言葉を口にした。  それに対して男は慌てた様子で姿勢を引き締め直した。 「い、いえ! お会いでき光栄です」  目の前で緊張気味に敬礼をする若者へ桃太郎は水を飲みながら視線を向けていた。少し鋭さを帯びた視線は、下から上へとさらっと観察してゆく。汚れ一つない軍服を模範のように着用したその胸元には堂々と煌めくバッジが一つ。
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