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「あの――失礼でなければ一つ質問をさせて頂いても宜しいでしょうか?」  滑らかな一本道を運転する有真はバックミラー越しに桃太郎を見た。ロングコートにブーツ、カジュアルと正装の間のような服装を着た彼は頬杖を突きながら窓の外を眺めている。 「なんだ?」 「貴方の伝説は軍学校でも学ぶ程です」  その言葉に桃太郎はフッと嘲笑的な笑いを零した。 「昔の事だ。途轍もなく昔のな」 「ゴーラン王国のみならず人間社会がこうして発展しているのは確実に貴方方の偉業という基板の上に立っているものです。ですが、一つだけ気になっている事があります」 「自分で言うのも何だが、確かに鬼ヶ島へ行き、鬼と戦った。ただの神話じゃない」 「いえ。そこに感謝と尊敬はあれど、疑問はありません。私が抱いたのは――このような事を尋ねていいものかは分かりませんが」  有真は少し言い辛そうに一度、言葉を途切れさせた。 「貴方が桃から生まれたという事です」 「あり得ない、か」 「私が無知なだけなのか、貴方が特別なのか。少なくとも今の私に判断する事は出来ません」  直ぐに返事は無く、エンジン音だけが響く車内で桃太郎は過去を見るような眼差しで駆け抜ける景色を見つめていた。そんな桃太郎をバックミラーで一瞥しただけで有真もただ返事を待つ。 「婆さんからはそう聞いた。としか言えんな。お前が本当に母親から生まれたのかと訊かれるのと同じようにな」 「――そうですよね。変な質問をしてしまい申し訳ありませんでした」 「疑問を持つのは才能だ」  それから少し走った車は見上げる程の門へ到着すると検問をほぼ顔パスで通り抜け王国軍本部へと向かった。
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