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車を降りた桃太郎は有真に連れられそのまま最高司令官室へ。その道中、軍学校で習うというのは本当なようで桃太郎は数多くの視線を感じていた。
そして二人は本部最上階にある最高司令官室へ。ドアを開けてみるとまず秘書室が二人を出迎えた。男女それぞれ一人ずつ、デスクで仕事をする秘書と顔を合わせた有真は敬礼をしただけ。そのまま奥の部屋へと足を進めた。
まずノックをし中へ入る有真からは微かに緊張が漂い、これまでもそうだったがより一層規律的な姿勢で広々とした部屋の奥へ。ドアと向き合う形で設置されたデスクではガラス張りの壁を背に、一人の男が上から釣られているような姿勢で仕事をしていた。山積みの資料に囲まれているが表情は清々しい。
「瀧野瀬有真、只今戻りました」
指先どころか爪の先まで意識の行き渡ったそれはこれまでで一番気合の入った敬礼。
その声に氷上を滑るように緩慢と顔を上げたフィスキー最高司令官は、鋭くもどこか柔らかな眼差しを有真へと向けた。
「ご苦労様でした」
落ち着き払った冷たい声で静かに返すと、フィスキーはペンを置き立ち上がった。高身長で軍人にしては細くも見えるが、腰に差した軍刀と埃一つない軍服、その自信に満ちた表情はどこか威厳を漂わせている。
フィスキーは絨毯の床を静かに歩くと桃太郎の前で立ち止まった。
「このような場所へわざわざご足労頂き、まずはお礼を申し上げます」
そう言って彼は王国軍を統べる者とは思えないような深々としたお辞儀をした。
「本来ならば私が伺わせて頂くべきですが、何分、手が離せぬ状況でして」
フィスキーは後ろで処理されるのを今か今かと待ちわびる仕事の山を手で指して見せた。
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