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「構わん。こっちは一日中、時間を持て余すような余生を過ごしているだけだからな」
「貴方の働きがあってこそのこのゴーラン王国です。その分ごゆっくりお過ごしになられて下さい」
この場所でも、そう言うようにフィスキーは傍のソファへと桃太郎を促した。それに従い腰を下ろす桃太郎の体を包み込むそのソファは絶妙な柔らかさ。
そしてそのタイミングで前室にいた秘書が桃太郎の前へお茶を運んできた。
「忙しいのなら早速本題に入ろう」
「お気遣い感謝致します」
言葉と共に頭を下げたフィスキーは桃太郎へ背を向けるとデスクへと足を進めた。
「その昔、人類にとっての敵は鬼でした。今では同じ人類となってしまいましたが……。そんな鬼に対し一人の英雄が立ち上がった」
それが貴方、と丁度デスク前までやって来たフィスキーは桃太郎とを手で指した。
「勇敢なる仲間と共に貴方は鬼ヶ島へと行き、鬼の王を討伐しました」
「昔話をする為にここまで呼んだのか?」
封筒を手に戻って来るフィスキーに対し桃太郎は今にも溜息を零しそうだった。
「その時の事を今でもハッキリ覚えていらっしゃいますか?」
「まだボケちゃいない」
「ではまずこちらをご確認下さい」
そう言って彼は封筒から取り出した一枚の写真を桃太郎へと手渡した。
フィスキーの用件が何なのか全く分からず疑うような視線を向けながらそれを受け取る桃太郎。取り敢えずと視線を落とした。
最初、そこに映っている影のようなものが一体何なのか見当も付かなかった桃太郎は眉を顰めていたが――。
「まさか……」
零す様に言葉を口にしながら瞠目した桃太郎の目に映っていたそれは彼にとって信じ難い光景だった。数秒写真を見つめた後、顔を上げた彼は問うような視線をフィスキーへと向ける。
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