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「建国後、相応の準備が整い次第に我々は一日たりとも欠かさず主無き鬼ヶ島を監視し続けていました。そしてそれが撮影されてしまったのです。そこでまずは貴方にお尋ねしたく、お越しいただきました」  一息つくように間を空けたフィスキーの双眸は微かに鋭さを帯びた。 「――それはあの天酒鳳神王鬼(てんしゅほうじんおうき)で間違いないでしょうか?」 「これだけで断定は出来んが、そう考えて行動した方がいいだろう」 「そうですか」  桃太郎の答えにフィスキーは今にも溜息が聞こえてきそうな落胆した声を出した。同時に心情の表れか顔を俯かせる。 「それでは桃太郎さん」  だが気を取り直したようにフィスキーは表情を戻した顔を上げた。 「我々ゴーラン王国は貴方に王鬼の討滅を依頼させて頂きたいのですがいかがでしょうか?」 「一国の軍隊がこんな老い耄れに鬼退治を依頼するのか?」  嘲笑と言うより冗談交じりといった具合に笑みを零して見せる桃太郎。  だがフィスキーは微笑みを浮かべ返すだけでその目は真っすぐとした眼差しを向け続けていた。 「しかもそれを率いるのは、本物の天才」  桃太郎はそう言って表情の変わらぬフィスキーを指差した。 「昔の話だが、街を訪れた時に噂を耳にした。将棋、囲碁、チェスの王冠を手にした統一王者の青年がいると。それに友人の話によれば、その天才は武にも長けるらしい。この国で生まれながら裏で各国から誘いがあったなんて噂もな」  桃太郎の言葉が終わると、二人の間には沈黙が流れ始めた。まるで見えない盤上の攻防が静かに行われているかのようにどこか緊張感を含んだ沈黙が。
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