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 それを破ったのは笑いを漏らしたフィスキー。 「私はこの国を愛しています。そしてその根源でもある憧憬の念は、一人の英雄へと向けられているのです」  冗談か本心か、フィスキーは桃太郎へ差し出す様に手を向けた。 「そして貴方の仰る通り、これは本来ならば我々が対処すべき問題。ですが過去の資料を読み漁り、更に多少の上下を考慮しつつ、王鬼をどうすれば討滅出来るのか……。私はありとあらゆる策を講じました――ですが結果は全て同じ」  言葉より先にフィスキーは小さく顔を振った。 「我が軍の壊滅です。あの化物に勝つ手段を私は思い付く事が出来ませんでした。いえ――これしか思い付かなかったのです。王鬼に関しては私よりも遥かに貴方の方が詳しいのは事実ですが――どうでしょう? 貴方から見て我々が王鬼に勝つ方法は存在するのでしょうか?」  その質問に桃太郎は大きな溜息を零した。 「ここの軍がどれ程の規模なのかは分からん。だが、アイツを殺す為に必要なのは数じゃない。アイツを殺すのに必要なのは――」 「貴方です」  答えを待たずに割り込んだフィスキーは、確信的な表情を浮かべ桃太郎へ手を向けていた。 「恐らく全勢力を投じれば、我々は貴方を殺す事が出来るでしょう。一方で王鬼は我々を一人残らず殺す事が出来る。そして貴方は――王鬼を殺す事が出来る」 「だがヤツはだけは儂を殺す事も出来る」 「そうかもしれませんね。ですが、貴方の刃は誰よりも王鬼の喉元に近い」 「もし儂が断ればどうするつもりだ?」 「そうですねぇ……」  フィスキーは顎に手を当て素振りなのか少し考え始めた。 「ありったけの軍船にありったけの爆薬を乗せ、残りの兵で王鬼の注意を引いている内に軍船で一斉に突撃でもしますかね。あの辺り一帯の海流を変える程の爆発が起これば一筋の光ぐらいは見えるでしょう。良くてゴーラン王国軍との相討ちといったところでしょうか」 「軍の最高頭脳が実行する作戦とは思えんな」 「仕方ありません。現状、王鬼は圧倒的な捕食者なのですから」  そして桃太郎は大きく息を吐きながらもう一度、写真へと目を落とした。
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